日本の伝統企業「JTC」に蔓延るDXに無気力な社員……縦割りを打破し“横に動ける人”を育てる4の極意
第1回:なぜJTCではDXが進まないのか? 組織風土を変えるカギとは
分断された組織構造を打破するカギとは
サイロ化した組織構造は、DXのような新しい取り組みに対して脆弱といえます。新しい取り組みを行う過程では膨大な未知の課題と向き合い、解決していかなければいけないため、自組織だけで蓄積してきたスキルや過去のルール、意思決定パターンだけでは通用しません。新しい取り組みを成功させるためには、社内外の組織や人から学び、密接に連携しながら問題を解決する必要があります。
DXは、社内外の異なる組織における異なる視点の組み合わせによって生まれるものです。営業部門と商品開発部門の知見が交わり、IT部門とデータ分析部門など、それを実行に移せる能力が連携して新たな価値が創出されます。しかし、サイロ化した組織構造ではこれが起こりづらいのです。
では、サイロ化した組織構造を打破し、横断的に他組織と協働するためにはどのようなことが必要でしょうか。協働を実現するカギは、社内の各部門や、社内と社外(企業や自治体など)をつないで連携・協働できる組織や人を作ること。筆者はこのような人を「横をつなぐ人」と呼んでいます。

「横をつなぐ人」をどう生み出すのか
横をつなぐ人とは、社内・社外における部門間のミッションやそれを遂行するにあたった課題を理解した上で、各プレーヤーの利害を調整し、プロジェクトを成功に導く人です。筆者が担当してきた住友生命の「Vitality」や「WaaS(Well-being as a Service)」のプロジェクトでも、社内外のあらゆる関係者の立場や要望を理解し、共通の目的に向けて進める“異業種共創”がいかに重要かを体感してきました。
横をつなぐ人には、部門と部門の利害やノウハウ、スキルをつないで新しいやり方や知識を産み出す力が必要とされます。この人材の発掘・育成がDXを進めるために重要なのです。
ところが、JTCは横をつなぐ人が育ちにくいのです。その原因として、人事制度が縦割りになっていることで昇進評価が縦のラインで決まったり、他部門との連携には稟議・合意形成が必要で手間がかかったりすることが挙げられます。こうした環境で働いていると、「縦に従ったほうが効率的だ」と思うようになりがちです。その結果、若手社員が次第に新しい挑戦をしなくなったり、中堅社員が部門横断的要素を持つ提案をしなくなったりするなど、横をつなぐことに興味をなくしてしまいます。
この問題を解決するためには、“横に動くこと”がキャリアとして評価される制度が必要です。たとえば部門だけでなく全社的に貢献する取り組みを評価したり、プロジェクトへ貢献したら評価に加点したりといった取り組みが有効でしょう。役割と報酬の連動が横をつなぐ人の増産に貢献します。
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岸 和良(キシ カズヨシ)
住友生命保険相互会社 エグゼクティブ・フェロー デジタル共創オフィサー デジタル&データ本部 事務局長住友生命に入社後、生命保険事業に従事しながらオープンイノベーションの一環として週末に教育研究、プロボノ活動、執筆、講演、趣味の野菜作りを行う。2016年から...
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