日本の伝統企業「JTC」に蔓延るDXに無気力な社員……縦割りを打破し“横に動ける人”を育てる4の極意
第1回:なぜJTCではDXが進まないのか? 組織風土を変えるカギとは

多くの日本企業、特にいわゆるJTC(Japanese Traditional Company)では、DXが掛け声倒れに終わるケースが少なくありません。JTCは「技術的な難しさ」でDXにつまづいているのではなく、「ビジネス理解の欠如」「目的と手段の誤解」「組織と人材のミスマッチ」などといった非技術的なことで課題を抱えていることがほとんど。連載「住友生命 岸和良の“JTC型DX”指南書」では、住友生命でITプロジェクトのリーダーを務め、社内外でDX人材育成に携わる岸和良(以下、筆者)が、JTCのDXを阻む要因を紐解き、真の意味で変革を遂げるための具体的な方法を解説していきます。第1回目となる本稿では、JTCあるあるの「縦割り組織」ならではの課題にフォーカスし、その解決に必要な視点を示します。
なぜ日本の伝統的大企業ではDXが進まないのか
筆者は、住友生命保険(以下、住友生命)のエグゼクティブ・フェロー/デジタル共創オフィサー/デジタル&データ本部 事務局長を務めています。住友生命におけるDXの推進に加え、デジタル人材育成プログラムを設計・展開したり、外部のコラム記事や書籍・講演などで解説したりと、社外に向けた活動も積極的に行う中で、様々な企業と対話する場をもちました。こうした企業の中には、日本の伝統的大企業、いわゆる「JTC(Japanese Traditional Company)」が数多く含まれ、JTCに所属するDX推進を行う社員の能力の高さや粘り強さ、やる気や意欲を感じる場面に幾度となく出会いました。それにもかかわらず、JTCではDXが上手く進まない実態が見受けられます。その原因はどこにあり、どのような解決方法があるのでしょうか。
本連載は、DX推進に悩む情報システム部門の方々に現実的なヒントを提供することを目的とします。デジタル変革の“3層構造”を明らかにし、それぞれの難易度や取り組み方の違いを実践的に整理。デジタル人材育成の落とし穴や、組織改革に必要な視点も取り上げます。
縦割り・ピラミッド型組織が生むDXの弊害
最初にお伝えしたいのは、JTCはその特性上、そもそもDXには不向きだということです。JTCは一般的に巨大な組織構造で多くの社員を有しており、これがDXに欠かせない「素早く動くこと」「情報の迅速な連携」に不利に働きます。例えるなら、巨大な恐竜が「動きの速さ」や「危機への感度」といった面では小さな哺乳類に勝てないことに似ているかもしれません。
巨大組織には“縦割り型”という特徴があり、これは過去から蓄積されてきた定型的業務の量や求められる業務品質が関係しています。定型的業務では限られた関係者内で判断・実行するほうが品質もスピードも確保しやすく、これを行うには縦割り型組織のほうが合理性があるといえます。課長、部長、役員へと続くピラミッド構造では、組織や管理職にスキルが蓄積されやすく意思決定が早いのです。
しかし、この構造には弊害があります。それは縦方向には情報が伝わりやすいものの、“横方向”には伝わりにくいこと。たとえば、営業部門が得た顧客の声が開発部門に伝わらなかったり、IT部門が導入したツールが業務部門で活用されなかったりといった部門を横断した連携の弱さが挙げられます。
これには縦割り構造で育まれる価値観や文化も大きく影響しています。「専決事項だから自組織で決定すれば良い」「他部門が絡む案件は調整が大変」という空気が、複数組織での協働意識を弱めることになるのです。この結果、会社全体として優れた提案が特定部署の若手社員から出ても、調整が大変であるため“誰も拾わない”といったことが起きてしまいます。
縦割り構造で起こるこのような弊害は「JTCのサイロ化問題」と呼ばれています。サイロ化の語源は、英語の「silo」。元々は家畜の飼料や農産物を貯蔵する縦型・円筒形の貯蔵庫を指す言葉で、それぞれのサイロは独立しており、物資が混ざり合いません。このように、組織やシステムがそれぞれ独立してしまい、連携が取れない状態をサイロ化と呼ぶのです。
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岸 和良(キシ カズヨシ)
住友生命保険相互会社 エグゼクティブ・フェロー デジタル共創オフィサー デジタル&データ本部 事務局長住友生命に入社後、生命保険事業に従事しながらオープンイノベーションの一環として週末に教育研究、プロボノ活動、執筆、講演、趣味の野菜作りを行う。2016年から...
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