クラウドコストの「可視化」から始めるFinOps実践──日本IBM、日立製作所、SBI新生銀行が実践を公開
IBM Cloudability イベント2026レポート
クラウド利用の拡大により、コスト構造の複雑化に悩む企業が増えている。日本IBM Apptio事業部は2026年5月15日、TODA HALL & CONFERENCE TOKYO(東京・京橋)で「クラウドコストの『可視化』から始めるFinOps実践」と題したイベントを開催した。本記事ではIBM登壇2セッション、日立製作所の特別講演、SBI新生銀行の事例講演という4セッションから、FinOps実践の現在地と次の一歩を読み解く。
「血圧は説教より数値の方が強い」——可視化から始めるFinOps実践
冒頭セッションには、日本IBM テクノロジー事業本部 Apptio事業部 Cloudability ソリューションコンサルタント 横谷信太郎氏が登壇し、現場で直面する課題の整理とFinOps Foundationのフレームワークに沿った進め方を提示した。
横谷氏は、毎月の請求額の増加要因が把握できない、AI/GPUコストがブラックボックス化している、タグ運用が煩雑で部門別配賦ができない、Savings PlansやReserved Instanceといったコミットメントを使いこなせていない、といった企業から聞かれる悩みを列挙する。クラウドコスト管理が難しくなった背景には、技術ではなく運用モデルそのものの変化があると整理した。オンプレ時代の固定費・年次予算・IT部門集中管理から、クラウド時代の従量課金・開発部門による直接利用へ移行し、マルチクラウドの拡大とAI/GPUリソースの追加が不透明性を加速させている、という構図である。
横谷氏が繰り返し強調したのが「血圧は説教より数値の方が強い」というメッセージだ。「いくらコストに対して最適化してほしいと訴えても、相手には相手の事情がある。だからこそ、相手と自分の状態をきちんと数値化し、背景やコンテキストを含めて共有していくことで最適なコミュニケーションが可能になる」と語る。
「Crawl→Walk→Run」についても触れ、「価値の最大化」という最終ゴールだけを求める企業が多い現状に対し、左端のCrawl(可視化・配賦の仕組み化)から着実に進めることを王道と位置づけた。可視化はゴールではなく、ダッシュボードを眺めるだけでは「コスト削減そのものの目的化」に陥る。運用レビューを定例化し現場を巻き込むことで初めてアクションが生まれる、というのが横谷氏の主張だ。
日立製作所の「FinOpsアンチパターン」——他者の失敗から学ぶ
続く特別講演には、日立製作所 Hitachi OSPO シニアクラウドアーキテクト 松沢敏志氏が登壇した。松沢氏は2020年の日立グループ クラウド推進部門設立期からFinOpsに関わり、『クラウドFinOps 第2版』(J.R.Storment・Mike Fuller著 オライリー・ジャパン)の翻訳も手がける日本のFinOps普及の中心人物の一人である。
「彼を知り己を知れば百戦危うからず」という孫子の言葉を掲げ、成功体験よりも失敗事例から学ぶ意義を強調した。「成功体験は確かにそうやればうまくいくと納得しても、いざ自社で実践するときには文化やシステム、前提条件が違って再現が難しい。失敗から学ぶ方が簡単」と語り、現場で目撃した「FinOpsならぬFinOoops(やっちまった)」事例を紹介した。
最初に挙げたのが、FinOps推進チームと開発現場の対立構造だ。「CPU使用率が数%だから無駄では」と機械的にリストアップして突きつけると、現場からは「スパイク対応のバッファだ」「検証用データだ」と反発が返る。「こうなると正直、もうFinOpsは詰みです」と松沢氏。機械的な最適化候補リストは「あくまでも現場とのコミュニケーションのきっかけにすぎない」とし、FinOpsチームは現場をコントロールする組織ではなく、現場が自ら判断して動ける土壌を作る組織だ、という認識のシフトを求めた。
2つ目は「探索なきコミットメント」。生成AIワークロード向けGPUインスタンス案件で、「コミットすれば単価が半分」と聞いた担当者が過剰購入し、使わない割引枠を抱えた事例だ。「コミットメントは必要なときに必要なだけ。それを定期的に見直す」ことを推奨した。3つ目はリフトアンドシフトでAuto Scaling設定が打ち消され料金が高止まりした事例。「不足しているのは人材ではなく、専門家を関わらせる仕組みかもしれない」と問いかけ、デプロイパイプラインへのコストチェック組み込みなど、現場が意識しなくてもガードレールが効く設計を提唱した。
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