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【SAP】JouleからAI Foundationまでの活用事例、Perplexityとの提携も

「SAP Sapphire & ASUG Annual Conference 2025」レポート#2

 SAPは企業向けAIソリューション「SAP Business AI」を急拡充し、2025年5月時点で230以上の生成AIシナリオを実装、年末までに400以上の提供を計画している。AI戦略の3つの柱は、非SAPアプリケーションにも拡張した新UI「Joule」、推論機能を持つ「Joule Agents」40以上の展開、そして複数の基盤モデルに対応する「AI Foundation」である。Perplexityとの提携により非構造化データも活用可能となり、34,000社超の顧客が既に活用している。British Telecomでは人事業務を40%高速化するなど、具体的な業務効率化の成果を上げている。

400超シナリオ達成へ向かうSAP Business AIの拡張ペース

フィリップ・ハーツィヒ氏(Chief Technology Officer and Member of the SAP Extended Board, SAP)
フィリップ・ハーツィヒ氏(Chief Technology Officer and Member of the SAP Extended Board, SAP)

 SAPはAIソリューション「SAP Business AI」を提供するにあたり、顧客のビジネスプロセスとビジネスアプリケーションにAIを組み込むことに注力してきた。その範囲は、人事から、ファイナンス、サプライチェーン、CXに至り幅広い。2024年の計画では、100種類超の生成AIシナリオを提供するとしていたが、2025年5月時点で、既に230以上の生成AIシナリオを実装しており、2025年末までに400以上のシナリオを提供するペースで計画が進んでいる。

 また、SAPでは、ルールベースでタスクを処理する「Jouleスキル」と、推論の必要な複雑なタスクを処理するAIエージェント「Joule Agents(詳細は後述)」を別々のものとして区別している。分析に関する質問への回答、ファイナンスに関する質問への回答、トランザクション作成、自然言語での総勘定元帳への転記、求人依頼や購買依頼の作成など、さまざまな業務領域のJouleスキル、1,600以上がすぐに利用できるものとして提供されている。

 フィリップ・ハーツィヒ氏(Chief Technology Officer and Member of the SAP Extended Board, SAP)は、「現在、34,000社超の顧客全てがSAP Business AIを日々活用し、ビジネスの変革に取り組んでいる」と紹介した。例えば、British Telecomでは、適切なスキルを持つ候補者を探す時間を85%短縮し、従業員の人事業務を40%高速化することに成功した。また、PwCはNovo Nordisk向けに税額算定ソリューションを設計し、エラーの排除で手戻りの時間を短縮できた。さらに、BoschはJoule for Developersを活用し、クリーンコアの効率化とABAP開発者の生産性を10%向上させることに成功した。

 「SAPのAI戦略は非常にシンプルで、3つの柱で構成されている」とハーツィヒ氏は語る。その内訳は、AI時代の新しいUIである「Joule」、ビジネスプロセスの再構築の方法を示す「Joule Agents」、そしてAIのためのオペレーティングシステムとしてBTP上に構築した「AI Foundation」である。

Joule Everywhere戦略で非SAPアプリケーションでも利用可能に

 まず、JouleはSAPのクラウドERPアプリケーションのエクスペリエンスレイヤーを変革する戦略の柱と位置付けられている。モバイル登場以前のSAP GUIでは、データを分析したい時、ERPシステムを何階層もドリルダウンしなければならなかった。その頃に比べると、生成AIはさらにUXをより良いものに変えてくれたと言えるだろう。

SAPアプリケーションのUXを進化させるJoule 出典:SAP [画像クリックで拡大]

 Jouleはフロントエンドで、エンドユーザーの質問への回答を提供してくれる。そして、バックエンドでは、後述のJoule Agentsがエンドユーザーからタスクを引き継ぐという役割分担になった。JouleはSAPのどのアプリケーションを利用していても、ワンクリックで呼び出せる。さらに、2024年6月に買収したWalkMeとの統合完了で、SAP以外のアプリケーションにJouleを拡張した。

 そのための新しい仕組みがJoule Action Barである。Joule Action Barは、WalkMeのテクノロジーを活用し、ブラウザーを開いていれば、どんなアプリケーションでJouleを使えるようにした。Salesforce、ServiceNow、WorkdayのようなSaaSでも、ニュースサイトでも、どこにいてもJouleが使える。いつでもどこからでもJouleにアクセスできる。この状態を、クリスチャン・クライン氏(Chief Executive Officer, SAP)は「Joule Everywhere」と評し、2025年第3四半期からJouleの一般提供を開始すると発表した。

 また、クライン氏は新しいパートナーシップも明らかにした。その相手はAI検索エンジンを提供しているPerplexityだ。SAPが膨大な構造化データを保有しているのに対し、Perplexityは膨大な非構造化データの意味を理解するリーダー企業である。ここでの非構造化データとは、Webの中のニュースや公開情報などだ。例えば、関税に関する最新のニュースをオンラインで読んでいて、それが特定の国における自社のビジネスにどのような影響を与えるのかを知りたいと考えたとする。Jouleに質問を投げかけると、自社のビジネスデータと関税に関する外部情報を関連付けて、必要な回答を提供してくれる。

Joule+Perplexityの利用イメージ 出典:SAP [画像クリックで拡大]

 ゲストとして登壇したアラビンド・スリニバス氏(Perplexity CEO)は、Perplexityがエンドユーザーの質問に対し、リンクのリストを表示する代わりに、信頼できる回答を提供する「回答エンジン」である点を強調していた。Perplexityの回答には情報源も明示され、回答に加えてより多くの情報を発見することもできる。「私たち共通の顧客が、よりインテリジェントに接続されたデータを基により良い意思決定を行うことが可能になる」とスリニバス氏は語った。

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構造化と非構造化データ連携でPerplexity統合が実現する新検索体験

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この記事の著者

冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

 IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...

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