「AI、結局使われない……」を打破! 日清食品やパーソルに学ぶ、社員を動かすチェンジマネジメント
AI先駆企業に共通する「組織変革」の手法とは
もはや常識! AI活用に欠かせない「チェンジマネジメント」3つのポイント
チェンジマネジメントとは、組織変革を成功させるための手法のこと。組織の中には変革に消極的な人もいる、という前提で“変化を受け入れやすい”組織を作ることを目指します。
チェンジマネジメントには、様々なフレームワークが存在しますが、代表的なのはジョン・P・コッターによる「変革の8段階プロセス」です。下記8つのステップを順番にクリアしていくことで、組織に“変化”を根付かせていきます。1990年代に発表されたフレームワークですが、DXの波が押し寄せる中で再び脚光を浴び、現在ではAIを導入する現場でも応用されつつあります。
「変革の8段階プロセス」
- 危機意識を高める
- 強力な連帯を築く
- 戦略的ビジョンを策定する
- 全員の支持を得る
- 障壁を取り除いて行動を可能にする
- 短期的な成功を生み出す
- 加速を持続する
- 変化を定着させる
これらのステップは、一つも飛ばすことなく進めていく必要があるとされていますが、中でも注目したいのは、「ビジョンを策定し、それに対する社内の支持を得ること(3、4)」「障壁を取り除くこと(5)」「短期的な成功を生み出すこと(6)」です。それぞれどのようなアクションが求められるのか、AI活用の成功事例をもとに確認していきましょう。
事例から学ぶ:日清食品ホールディングス株式会社の場合
日清食品ホールディングス株式会社(以下、日清食品)は、自社内で生成AIの活用を先駆的に推進してきた企業の一つです。同社が公表したIR資料によると当初、全社平均の生成AI利用率は3割にも届きませんでしたが、生成AIの活用プロジェクト開始から半年足らずで利用率が上昇。マーケティング部門は90%以上、生産部門は80%以上、営業部門は70%以上という驚異的な利用率をたたき出しました。

[画像クリックで拡大]
日清食品がここまで大きな成果を短期間で得られたのは、一体なぜなのでしょうか。3つのポイントに分けて考察していきます。
成功ポイント①:ビジョンを策定し、それに対する社内の支持を得られた
AI活用を成功させるには、「何のために」「どのように」AIを活用するのかというビジョンを策定し、それを社員に共有して納得してもらうことが必要不可欠です。
当たり前のことのように思われるかもしれませんが、AI活用自体が目的化してしまったことで失敗している企業は後を絶ちません。「経営陣から『AI活用の事例を作れ』と言われたので、とりあえず社内研修を実施したが、社員がAIをあまり使ってくれない」というのがその一例です。AI活用はあくまで手段なので、それによって何を成し遂げたいのかという目的を全社で共有しなければ、社員も「AIを活用しよう」という動機を持てません。
日清食品では、経営層が自らAI活用にかかわるビジョンを積極的に発信。同社専用のChatGPT環境を整備するだけではなく、業務に活用して生産性向上、スキル向上を目指すことを明言しました。さらには朝礼などの場で施策内容を共有し、事務局を立ち上げて社内報で現状を報告するなど、社内マーケティングを活性化させたことで、社員間で“ビジョンへの共感”を醸成することができたのです。
成功ポイント②:障壁を取り除くことができた
新しく導入した業務システムやツールは活用してもらえたのに、AIはなぜかうまくいかない……と悩んでいる企業も少なくありません。その背景には、大きく分けて“2つの障壁”があります。
1つ目は、知見やスキルのギャップです。業務システムなどに比べて、AIは使いこなすには一定の知見とスキルが要求されるため、「どのように使うのかわからない」という状態に陥りやすいのです。
もう1つの障壁は、強制力のなさ。たとえばWeb会議ツールの場合は、そもそも使用しなければ、社内外のミーティングに参加できませんが、AIは使わなくとも業務を遂行できてしまいます。その結果、社員は多少時間がかかっても「前のやり方でいいか」という思考に落ち着いてしまいがちです。
日清食品は様々な取り組みによって、この2つの障壁を解消しました。
まずは、下図のように「研修実施」「対象業務洗い出し」「プロンプトテンプレート作成」「効果算出・成果報告」という、4つのステップでプロジェクトを進行すると共に、活用事例を共有できる場として社内コミュニティを形成。研修実施の他、利用するためのプロンプトの用意、コミュニティ内の情報交換などにより、「どのように使うのかわからない」という課題を解決しました。

[画像クリックで拡大]
さらに、AI活用を前提とした業務プロセスを確立。AIを利用するかどうかの判断を個々の社員に委ねないことで、「AIを使わない従来のやり方でいいか」という思考に陥らず、“必ずAIを使う意識”を根付かせることを目指したのです。

[画像クリックで拡大]
成功ポイント③:「短期的な成功」を生み出すことができた
最初から大規模かつ複雑な変化を目指すと、組織内の抵抗も大きくなるため、プロジェクトが頓挫する可能性は高まります。特にAI導入時は、「業務プロセスを大きく変えるチャンスだ」とばかりに、大胆な変革を志向する企業は多いですが、あえてスモールスタートで、“短期的”な成功を生み出すことを意識することが成功への近道です。
日清食品も、最初から全社規模で進めるのではなく、営業部門の業務から“小さく”生成AIの活用に取り組んだそうです。たとえ小さくとも成功が積み重なっていけば、現場のモチベーションは自ずと向上するもの。そうして変化の規模やレベルを少しずつ上げていくことで、大きな変革につなげることができたのです。
この記事は参考になりましたか?
- AI活用の真髄──効果的なプロセスデザインとビジネス変革連載記事一覧
-
- 「AI、結局使われない……」を打破! 日清食品やパーソルに学ぶ、社員を動かすチェンジマネジ...
- AI導入後に2年停滞も「ゼロ化」の視点により2ヵ月で改善──AIをポイントソリューションに...
- AI導入でかえって業務を増やしていないか? 成功企業と失敗企業の差は「プロセスデザイン」に...
- この記事の著者
-
小坂 駿人(コサカ ハヤト)
パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社
ビジネストランスフォーメーション事業本部
データコンサルティンググループ 兼 ゼロ化コンサルティンググループ マネジャー2021年、パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社に入社。前職ではHR業界における事業戦略/新規事業開発部門に所属。2022年には、...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア