トヨタ自動車が構築を目指す「エッジAI分散基盤」とは?高度なモビリティAIの学習を阻む課題と突破口
電力・ファシリティ・通信負荷……その先に直面する多種多様なエッジの制御

トヨタ自動車は、エッジAI分散基盤の構築に本格的に取り組んでいる。高度なモビリティAIを実現するためには、膨大な車両データの効率的収集と、継続的なAI学習を支える大規模計算基盤が不可欠だからだ。2025年7月に開催された「F5 AppWorld 2025」(F5主催)で、同社の古澤徹氏は2つの技術的アプローチを紹介した。Wi-Fiとエッジサーバーを活用したデータ収集の効率化、そして再生エネルギーを活用した広域分散GPUクラスターによる学習基盤の構築だ。これらの実現に向け突破しなければならない課題と、同社が推進する活動とは何か。
「交通事故ゼロ社会」を目指しデータドリブンなモビリティAI開発へ
トヨタ自動車 デジタル情報通信本部 InfoTech 情報通信先行開発室E2Eコンピューティンググループのグループ長を務める古澤徹氏。同氏が所属する組織は、自動車向けICT技術を扱う研究開発部門だ。E2E(End to End)の名の通り、自動車側のエンドからクラウド側のエンドまでをつなぐ通信や計算、ストレージの在り方に関するICT基盤技術の研究開発を担っている。
古澤氏が示した統計によれば、交通事故による死亡者数は2013年以降の約10年間で約半数に減少している。自動運転や安全運転支援機能の進化と充実が功を奏した結果ともいえるだろう。しかし、トヨタ自動車にとってこの成果は通過点に過ぎない。同社が目指すのは「交通事故ゼロ社会」の実現であり、そのためにはさらなる技術革新が不可欠だという。
「現在は、『Toyota Safety Sense』という安全運転支援システムの高度化に取り組んでいます。また、様々な車両データを用いてモビリティに関するAIの学習を行い、高度化していく取り組みも進めているところです」(古澤氏)

古澤徹氏
ただし、個々の車両がどれほど賢くなっても防げない事故は存在する。交差点などで死角から急に飛び出して来るなど、どうしても避けられない場合がある。そこで古澤氏は、「将来的には自動車だけでなく、自動車と自動車、自動車と人、さらにはインフラが協調して互いに動作することで事故を防いでいく技術を開発したい」と将来の目指す姿を語った。
こうした高度なモビリティAIを実現するためには、膨大な車両データの効率的な収集と、継続的なAI学習を支える大規模な計算基盤が不可欠となる。もちろん、今時の自動車は携帯電話などの通信網を介してインターネットに接続されており、すでに多様なデータがやり取りされているのは言うまでもない。しかし、データドリブン開発を本格化するためには、これまでとは桁違いのデータ処理能力が求められるのである。
トヨタが目指すデータドリブン開発は、「①走行データの収集、②AIの学習、③シミュレーション・実車評価、④車両へのアップデート」というサイクルで進められる。走行データを収集し、クラウド側でGPUクラスタを用いてAIの学習を実施。その際、危険なシーンなどをAIで生成することもある。学習の後は、そのAIモデルをシミュレーションや実車評価で検証し、実用性が確認されたら車両にアップデートして精度を向上していくというプロセスになっている。
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森 英信(モリ ヒデノブ)
就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...
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