IVIと図研・NEC・電通総研が描く「日本版インダストリー4.0の第2幕」──IVI設立10周年イベント
一般社団法人インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)設立10周年記念セミナー

2025年6月12日、製造業のデジタル変革を推進するIndustrial Value chain Initiative(IVI)が設立10周年記念イベントを開催した。理事長の西岡靖之氏(法政大学教授)が日本版インダストリー4.0の第2幕への展望を示し、中小企業経営の実体験を交えながら大企業との戦略的連携による新たなものづくりモデルを提示。後半のパネルディスカッションでは、図研、NEC、電通総研のPLM代表企業3社が、その実現に向けた具体的なソリューションとアプローチを議論した。
分断社会をつなぐIVI型ものづくり─西岡靖之氏が描く「中小企業と大企業の融合戦略」

「12人以下の町工場の会社の経営者として経理、人事もすべてやってきた。中小企業にこそDXが必要だということを身をもって体験した」──こう語るのはIVI理事長で法政大学教授の西岡靖之氏だ。
日本の製造業における中小企業と大企業の生産性格差は深刻だ。統計によると、一人あたりの生産高は大企業が中小企業の約2倍となっている。しかし西岡氏は、この格差を単純な規模の問題として捉えるのではなく、構造的な課題として分析し、そこに希望を見出すのだという。
「要するに生産性を上げればいい。そのための条件として、規模の大小というのは重要ではない。中小企業の弱みとされる資金力や技術力は変えられるものであり、逆に意思決定の速さやイノベーション創出力は中小企業の強みだ」と語った。
マスカスタマイゼーションを超えた戦略─新たな価値創造への道筋
ドイツのIndustrie 4.0で注目されたマスカスタマイゼーション(大量生産の効率性を保ちながら個別顧客のニーズに応じた製品をカスタマイズして提供する生産方式)という方法がある。西岡氏は「スタートラインであって、それだけでは不十分」としながらも、重要なのは製品出荷後のサービス段階でのカスタマイゼーションであり、その点においては日本の製造業においても今後可能性があるという。その理由は、AI翻訳技術の急速な進歩だ。これまで日本企業が苦手としてきた海外市場でのサービス展開も、言語の壁を越えて現実的な選択肢となった。つまり、AIの力を借りることで、日本企業のオープンカスタマイゼーション戦略の実現可能性が格段に高まっているのだ。

こうした技術環境の変化は、中小企業の役割を根本的に再定義する契機となっている。西岡氏は「最前線できめ細かな対応や、マーケットは小さいけれどもその分利益率(マージン)は大きい分野をカバーする戦略においては、中小企業の規模がかえって強みになる」と分析する。
しかし、中小企業が単独で戦うのではない。むしろ重要なのは、大企業との戦略的な連携である。「中小企業と大企業とが、しっかりタッグを組みながら、全体的な仕掛けを回していく」ことこそが、日本の製造業が目指すべき方向性だと西岡氏は強調した。この協調戦略の具体的な実現形態として、西岡氏は未来のものづくりを3つの類型で整理した。

まず第一の類型として、「アグリゲーテッド(集約型)」がある。これはTSMCのような巨大ファウンドリに見られるように、サプライヤーを一箇所に集約することでノウハウの共有と投資効率を最大化する工場モデルである。次に、「ディストリビューテッド(分散型)」は、個別ニーズに対応するフランチャイズ型のアプローチで、それぞれの地域や専門ジャンルでナンバーワンのポジションを目指す特化型戦略を採る。そして最後に、「コネクテッド(接続型)」は、アジャイル工場として機能し、市場環境や顧客要求の変化に応じて柔軟かつ迅速に対応できる体制を構築する型である。
こうした組み合わせによって、日本発のIndustrie 4.0第2幕を展開していくというビジョンを西岡氏は語り、後半のパネルディスカッションにつないだ。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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