八子知礼氏に聞く、製造業DXのその先──宇宙ビジネスまで見据えた「AI×専門フレームワーク」の長期戦略とは?
INDUSTRIAL-X 代表取締役CEO 八子知礼氏 インタビュー
『境目の課題』解決の自動化── 手動150件から無限生成へ、特許技術が製造業を革新
──御社独自の「境目課題フレームワーク」について、その考え方と進化について教えてください。
八子:世の中の物事には境目があって、その境目にこそ課題があるという、かなり普遍的な経験則に基づいてまとめている考え方です。

例えば、組織の上下方向で「社長のビジョンが現場スタッフに伝わってない」というのは組織の境目の課題です。「お客様が送ってきたFAXの申し込み書をOCRで取り込んだけど、文字がうまく取れないから手打ちし直している」、これは手段とシステムの境目の課題です。「設計部門で設計したものが製造部門に流れていくと、『こんな設計じゃ作れねえじゃねえか』って言われる」、これは部門の境目の課題です。
──この手法が自動化されたことで、どのような変化が生まれましたか?
八子:これまで手動で境目マップを150以上書いてきましたが、手動でこれ以上書くことには限界があると判断し、AIによる自動生成機能を作りました。これによって我々のビジネスモデルが変わったと言えるぐらい、非常に大きな進歩を遂げています。
課題抽出フレームワークによる検討のステップとしては、横軸方向に場所の流れとか時系列の流れ、仕事の流れをマッピングして、縦軸方向では登場人物やシステムをマッピングします。そうするとこの境目に着目して、そこで課題を洗い出していきます。課題に対してある程度その課題が解決すると、どれぐらいいいことがあるのか、課題の優先順位や効果の大きさを評価し、本当に解決しなければならないものは何なのかにフォーカスします。
現在、この境目課題の抽出を自動生成できるようになり、ビジネスモデル特許も取得しています。他の会社が容易に作れないような状態になっているのです。
製造業革新を阻む現実── DXコンサル×AIで見えた企業の『境目課題』未対応リスク

──2025年がAIエージェント元年と言われていますが、課題はあるのでしょうか?
八子:AIエージェントというのは、人と同じような働き方をしてくれるソフトウェア、いわゆるデジタルワーカーです。来年になれば凄まじい勢いで増やすことができます。なぜならコピーできるからです。ソフトバンクの孫(正義)さんが「10億台導入する」と言っていましたが、あれくらい大量のデジタルワーカーが投入される時代が来ます。
例えば調達に10体のエージェントを入れると、調達で働いている10人分がいらなくなるはずです。調達が削減されると、次に生産がボトルネックになり、そこにもエージェントを入れることになります。いずれにせよ、こうした人たちを配置転換しなければなりません。そうなると人員の配置という新たな課題が生じます。
──そうした課題への対応方法は、まだ未知数ですよね。
八子:そうですね。しかし、これはかつて2000年当時からやってきたERPの時のBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)と全く同じです。AIによってビジネスプロセスを変え、人のアロケーションを変え、業務の負荷変動をデータとシステムによって平準化することで、スループットを最大化していく必要があるのです。
現在の企業の状況を見ると、経営層はAI活用の重要性を理解していても、どの部門の誰をリスキリングするか、どの部門に何体のAIエージェントを入れるか、といった具体的なAI活用戦略は決まっていません。さらに、AIはデータがないと使えないのに、データが整備されていない企業がほとんどです。
「現場に紙がまだありますよね?」「システム基盤もレガシーのままです」「データ抽出することができません」「工場とか現場レベルに行くと、まだまだデータ化されてません、IoTもやってません」という状況で、「AIとか言いつつ、結局IoTの時代とかデジタル化の時代に皆さんに宿題があったはずのところをやらずにAIの時代まで来てしまった」というのが現状なのです。

──実際にAIエージェントの導入事例があれば教えてください。
八子:兵庫県のある化学工場で、AIエージェントの構築を行いました。質問をテキストで入れると、複数の工場の複数の異なるシステムから、きちんとしたインターフェイスが貼ってあるわけじゃないけれども、RAG(Retrieval-Augmented Generation)を被せてあって、そこからデータを取得してきます。
例えば「今日の歩留まりとサイクルタイム(CT)はどうなの」「いくつ仕上がったの」みたいな質問を自然言語で入れると、システムが繋がってるわけじゃないのに結果が返ってくるのです。これは工場長が各工場や部門長に聞きたい情報そのものです。
デモを見ていた工場長が途中で「これは私の仕事だ」とおっしゃったので、「工場長、これは工場長が対話をするための副工場長にしましょう」と提案しました。実際に車で帰る際に、スマホに対して「今日の仕上がりは」「歩留まりは」「CTは」といった質問を音声で投げかけると、スマホが全部テキストで読み上げて喋ってくれます。これは部下が喋ってるのと同じ感覚で利用できるのです。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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