優先されるのは「契約の理屈」か、それとも「現実」か
ベンダー側は「個別の契約は独立しているため、完成したものについては当然費用が支払われるべき」と述べ、仮に損害賠償することになった場合でも、賠償するのは夜間バッチに関する一部分についてだけだと反論しました。契約というものの理屈を考えれば、たしかにそうした論にも根拠はあるように思えます。
しかし、ユーザー側である通信教育会社は納得しません。通信教育事業では、毎日決まった時間に顧客へ教材を発送する必要があります。そのための夜間バッチ処理が動かなければ、翌日の業務が止まってしまいます。そんなシステムには一銭の価値もなく、「一部であっても費用の支払いなどできない」と言うわけです。
どちらの主張にも正当な理由があるようには思えますが……果たして「契約の理屈」か、それとも「現実」か。裁判所はどのような判断を下したのでしょうか。
東京高等裁判所 令和4年10月5日判決より
本件各個別契約の全体を解除し、全ての契約の拘束力から解放される結果を認めるのは、
(中略)
本件個別契約(中略)(とその他の契約の)密接関連性が認められ、当該他の個別契約のみの実現を強制することが相当でないといえる場合に限って解除が認められるというべきである。
(中略)
(本件開発における他の個別機能は)(中略)本件個別契約のそれと密接に重なり合い、本件システムの開発作業の完成に向けて、いわば一体的に進められるべきであった作業に係る契約である。
(事件番号 令和4年(ネ)2390号 公刊物未掲載)
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細川義洋(ホソカワヨシヒロ)
ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...
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