なぜアシックスは営業利益率を飛躍的に向上できたのか? ──企業価値を高めた「ガチンコ経営」とは?
BlackLine主催「BeyondTheBlack TOKYO 2025」講演レポート
ブラックライン主催の「BeyondTheBlack TOKYO 2025」では、アシックスのCFO 林晃司氏と日本CFO協会の日置圭介氏との対談セッションが行われた。アシックスの急激な利益率向上をもたらしたカテゴリー経営導入による組織改革、政策保有株式の完全売却、データ活用による「ガチンコ経営」の実践が紹介された。
アシックスの変革への道のり
日置:林さんは2015年にアシックスに入社されて、今年で10年になりますね。この間の業績改善は本当に目覚ましいものでした。
林:ありがとうございます。2018年に現CEOの廣田が三菱商事から転職してきた後から、本格的な経営改革が始まりました。当時の営業利益はわずか105億円、営業利益率は2.7%という状況でした。それが2024年は14.8%、2025年は17.5%のガイダンスを出しています。営業利益額でいうと1,400億円です
日置:12ポイントの改善というのは、通常の改善活動では到底達成できない水準ですね。どのようなプロセスで進めてこられたのでしょうか。
林:最も大きかったのは2018年8月に発表した「カテゴリー経営体制の導入」です。従来は地域軸、つまりアメリカ、ヨーロッパ、中国といった地域ごとの経営でした。しかし2015年から業績が落ちてきた時期に、マーケティング、生産、販売がそれぞれ別の責任者のもとにあり、うまくいかないときは生産の人と販売の人が互いに指差しするような状況が生まれていました。
日置:まさに典型的な機能別組織の弊害ですね。私も他社で同様の課題を見てきました。P&L責任が曖昧になると、どうしても部門間での責任転嫁が起こりがちです。それをどう解決されたのですか。
林:各カテゴリーに1人の責任者を置き、言い訳のできない体制を作りました。2019年の決算資料には「No Excuse」と書いています(笑)。同時にKPIも再構築し、営業利益の金額・率、人員数、在庫といったKPIをカテゴリーごとに明確に設定しました。実は以前は、キャッシュや人員数がグローバルで見えていなかったんです。
日置:データの可視化は経営改革の基盤ですからね。見えないものは管理できないというのは、CFOの基本中の基本です。現在の中期経営計画での取り組みはいかがでしょうか。
林:現在進行中の、2026年までの中期経営計画では、三つの戦略を掲げています。まず、グローバル成長です。まだまだ我々が本格展開していない国や地域がありますから、グローバルでもっと成長できるという確信があります。二つ目は、お客様ともっと繋がっていく、デジタルを通したブランド体験の強化です。そして三つ目がオペレーションエクセレンス。私の管轄範囲も経理・IRだけでなくサプライチェーンまで拡大し、さらなる改善を図っています。
日置:CFOの役割拡大は近年のトレンドですが、サプライチェーンまで管轄されているのは素晴らしいですね。
林:データを活用した象徴的な取り組みが「ランニングエコシステム」です。我々は単に靴を売っているだけでなく、ランニングのプラットフォームを提供しています。2019年以降、北米、ヨーロッパ、オーストラリア、日本の4社のレース登録会社を買収しました。ランニングをする方はマラソン大会に参加されますが、その際の名前登録やクレジット情報登録などを我々のシステムで行えるようになっています。
日置:M&Aを通じたエコシステム構築ですね。一方で、多くの日本企業が苦手とする「選択と集中」も徹底されていると伺っています。これは財務的にはかなり勇気のいる判断だったのではないでしょうか。
林:ランニングで一番になると決め、いくつかの事業は思い切って撤退しました。直営店も2018年の1,100店舗から現在は600店舗まで絞り込みました。収益が上がらない店舗は閉める判断を下しましたが、これは各店舗の収益性をリアルタイムで把握できるようになったからこそ可能でした。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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