Ciscoとのシナジーを明確化 競合との差別化でマーケットシェア拡大へ
先述したアプローチは、Datadogのようなクラウドネイティブな競合が先行するオブザーバビリティ市場、Palo Alto NetworksやCrowdStrikeが覇を競うセキュリティ市場に対し、Splunkが明確な差別化を図るための布石となる。ピンパルカーレ氏は、競合の多くが特定領域のプレイヤーであると指摘した上で、「セキュリティとオブザーバビリティ、そしてCiscoがもたらしたネットワークを組み合わせることで、オンプレミスとクラウドの両方をカバーするソリューションを提供できる」と自信を見せた。
Ciscoとの統合は、この進化をさらに“深化”させる役割を担う。Ciscoのネットワーク機器から生成される膨大なマシンデータへのアクセスは、Splunkにとって他社にはない強力な学習データとなる。パテル氏が宣言したように、AI時代のインフラ基盤を両社が一体となって担うという構想は、競合に対する強いメッセージだ。事実、Ciscoのネットワーク機器からデータをSplunkに取り込むためのコネクタの開発、.conf25の基調講演でも示されたCiscoファイアウォール製品によるログの無償取り込みなど、統合によるシナジーが着実に製品レベルに落とし込まれている。
一方、この新しいビジョンにはユーザーの懸念もつきまとう。Cisco製品への「ベンダーロックイン」はその筆頭だろう。しかし両氏は懸念を払拭することに注力すると話してくれた。
「Splunkはオープンなプラットフォームであり続ける。現に統合後もCiscoの競合であるPalo Alto NetworksやCrowdStrike、あるいはZoomのような製品との連携もサポートしつづけている。われわれはオープンなエコシステムを拡充させていく」(ピンパルカーレ氏)

.conf25でも明かされた「Federated Search For Snowflake」による、Snowflakeとのデータフェデレーションの強化や、OCSF(Open Cybersecurity Schema Framework)、Apache Icebergといったオープンスタンダードへの準拠も、同社のオープン性を担保するための重要な要素だ。Splunkの戦略は、ベンダーロックインされた“閉じた世界”ではなく、多様なデータソースやツールと連携するエコシステムの「ハブ」となることを目指しているようだ。
Ciscoという巨人の力を得て、Splunkはデータプラットフォームとして新たなフェーズに突入した。同社が描く2~3年後の未来像について、ピンパルカーレ氏は次のように述べる。
「Splunkは、『AI時代の統合されたエンタープライズオペレーション』を目指す。サイロ化しているセキュリティチームやSREチームが共通のプラットフォームとデータコンテキスト上で協力し、AIによるサポートを受けながら問題を数分で解決できる世界。まずは、その実現に向けて注力していく」(ピンパルカーレ氏)
SplunkとCiscoのビジョンが市場にどこまで浸透するのか。特に日本市場においてはこれを理解するだけでなく、インテグレーションまで担えるパートナー企業を拡充することが最初の鍵となるだろう。幸い、Splunkのユーザーコミュニティは非常に熱心なユーザーが多く、日本も例外ではない。そうした強力なアドバンテージを活かし、AI時代のプラットフォームとしてSplunkを位置づけて、ビジネス価値を創出するような先進的な事例を作っていくことが待たれる。今回の.conf25で示されたものがビジョンで終わるのか、それとも市場を拡大するためのエンジンとなるのか。Ciscoという推進力を得たSplunkの真価が、今まさに問われている。
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岡本 拓也(編集部)(オカモト タクヤ)
1993年福岡県生まれ。京都外国語大学イタリア語学科卒業。ニュースサイトの編集、システム開発、ライターなどを経験し、2020年株式会社翔泳社に入社。ITリーダー向け専門メディア『EnterpriseZine』の編集・企画・運営に携わる。2023年4月、EnterpriseZine編集長就任。
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