
日本アイ・ビー・エム(日本IBM)は9月17日に年次イベント「Think Japan」を開催した。イベント冒頭のキーノートでは日本IBM 代表取締役社長執行役員 山口明夫氏や富士通 代表取締役社長CEO 時田隆仁氏らが登壇し、富士通と日本IBMの協業や「IBM AI Lab Japan」を立ち上げる計画などが発表された。本稿ではその模様をレポートする。
エンタープライズAIを推進する3つの要素に注力
今回のイベントテーマは「エンタープライズAIで加速する新たな価値創出」。キーノート冒頭に登場した日本IBM 代表取締役社長執行役員 山口明夫氏は同テーマを掲げた背景について、「企業の中にあるデータを活用してAIの価値をさらに高め、“攻め”のビジネスに転じるタイミングが来ている」と説明する。システムの側面からエンタープライズAIを推進するために、同社がさらに注力していく要素として以下3つを挙げた。
- 安心・安全にAIエージェントやデータを活用できる環境:生成AIやAIエージェントを真の意味で活用できるようにするために最も大切なことは、「どのLLMやデータをどのようにマネージして使っていくか」を検討すること。これを実現するためには、AIを前提としたデータの整備が必須
- ハイブリッドなインフラ環境で柔軟な業務の変革:システムモダナイゼーションの重要性が叫ばれるが、すべてクラウド化することが正しいわけではない。各企業や業務の特性にあわせてベストな形でシステムを稼働できる環境を整えていくことが重要
- 基礎技術の研究開発と進化:テクノロジーがどのように進化するかについて自身で理解することが重要。未来のテクノロジーによって起こり得る変化を的確に見据えてR&Dを進めていく必要がある

これら3つを実現していくためには、パートナー企業との連携が欠かせないとして、山口氏はパートナー企業である富士通の代表取締役社長CEO 時田隆仁氏を壇上に招いた。
日本の医療は「崩壊前夜」……3領域で富士通と協業へ
時田氏は現在の日本におけるテクノロジーを取り巻く状況について「コロナ禍をきっかけに日本の“デジタル後れ”が大きく取り沙汰され、悔しい思いを胸に日本の企業や政府が変わろうとする気運を強く感じている。ただ、レギュレーションや人権の問題もあり、技術革新がなかなか進んでいないことも事実。それをリードすべき富士通も十分に力を発揮してこれなかったことに反省の意をもって今の状況を捉えるようにしている」と述べる。
時田氏のコメントを受け、山口氏は「日本でテクノロジーの技術革新が進まない理由の一つに品質担保への意識の高さが挙げられるが、生成AIを活用することでかなり効率的に成果を上げることができる。我々も、新しい価値を生み出すという点において、富士通をはじめとした様々な企業と協力して新しいことにチャレンジしていきたい」と述べた。
このような背景から両社は、先進的なテクノロジーを活用して日本が抱える様々な社会課題を解決を目指すべく、両社が有するテクノロジーや知見を組み合わせ、新しい価値の創出で変革を加速するために協業することを発表した。具体的な協業内容はこれから検討するとのことだが、協業を検討する領域は、主に「AI」「ハイブリッドクラウド」「ヘルスケア」の3つの領域だとしている。
協業領域①:AI
時田氏は2025年を「AIエージェント元年」と表現し、「AIをどのように使うのかという議論を越えて、AIはもはや使わなければいけないというところまでもっていかないといけないと考えている」として、AIの活用が必須になっていることを強調する。
具体的な協業内容について山口氏は、「たとえば、複数のベンダー製品を用いることで、利用するAIエージェントやAIアプリケーションが増加したとき、それを管理するオーケストレーションの面で課題が生じる。AIアプリケーションやAIエージェントがいつ、どのLLMにアクセスしたのか、どのデータにどのようにアクセスしたのかなどを統合的に管理していく必要がある」として、オーケストレーション領域での協業の可能性を示した。
加えて、両社のもつAIソリューションやツールを持ち寄り、業種および業務特化型AIの開発、並びに統合AI基盤の構築における協業を検討するという。
協業領域②:ハイブリッドクラウド
山口氏は「目指すところは、顧客がオンプレミスかクラウドかなどのインフラ面を気にせず、必要なアプリケーションを自由に追加できる環境の実現。これをかなえるための取り組みを富士通と検討していきたい」とした。
時田氏も「日本の事業会社が本当にやらなければいけないのはプラットフォームやインフラの整備ではなく、その上で動くアプリケーションやサービスで自社の競争力を磨いていくことだ」として、「そのために我々がハイブリッドクラウド環境を整備し、多様なニーズに応えられるようにしたい」と意欲を見せた。

協業領域③:ヘルスケアにおける相互活用型のAI・データ連携
日本は、持続的な医療体制の維持やドラッグロスなど、ヘルスケアに関わる様々な課題に直面している。時田氏は、日本における医療の現状を「医療崩壊前夜」と表現し、多くの病院が経営破綻している現状に警鐘を鳴らす。「医療関係者と話をしていると、最後はシステムの課題に行き着く。『富士通が提供するシステムと日本IBMが提供するシステムでデータ連携ができないのはおかしくないか』とよく言われる。ソフトウェアなのでシステム的には可能なのだが、これまではそれを『できます』と積極的に発信してこなかった」と課題を指摘する。
このような中、厚生労働省では2025年度を目途に、病院の情報システムにおける標準仕様を示したうえで、その標準仕様に準拠した病院の情報システムを民間事業者が開発し、病院から段階的な普及を図ることを目指す方針が公表されている。こうした流れを受け、時田氏は「我々も競争するだけではなく、一緒にできる部分は協力し、テクノロジーを医療のために活用していきたい」と述べた。
山口氏と時田氏のセッションに続き、IBMで上級副社長 ソフトウェア兼チーフコマーシャルオフィサーを務めるロブ・トーマス氏が登壇。グローバルの状況を踏まえたテクノロジーを取り巻く日本の状況について説明した。
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