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情報を漏洩されても「秘密情報」だと裁判所が認めてくれなかった……企業側はどうすればよかったのか?

 本連載では、ITプロジェクトにおける様々な勘所を、実際の判例を題材として解説しています。今回取り上げるテーマは、「情報を漏洩されても『秘密情報』だと裁判所が認めてくれなかった……企業側はどうすればよかったのか?」です。大切な営業秘密などの情報を社員が外部に流出した場合でも、裁判所はその情報を「秘密情報にはあたらないので、社員に非はない」と判断するケースがあります。企業側からすれば理解できないかもしれませんが、この判断の根底には、本稿で述べるような理由があります。何をしていれば秘密情報だと認めてもらえたのでしょうか。

漏洩した情報が「営業秘密」であるかが争われた裁判

 ほとんどの企業・組織には、多かれ少なかれ「営業秘密」というものがあると思います。自社の技術情報や顧客に関する情報、取引上受け取った他社の情報など、その種類は多岐に渡ります。そして、内部/外部の人間がそれを流出させるという問題の発生も後を絶ちません。

 ただ、組織から情報が流出した際、そのすべてが不正競争防止法の適用(刑事・民事とも)に問われるかといえば、必ずしもそうではありません。そもそも流出してしまった情報が「営業秘密」とみなされるのかという問題があります。組織が「秘密」として扱っていない情報が流出しても、少なくとも大きな問題にはならないわけです。

 では、どのような情報が秘密であって、どのような情報が秘密でないのか。これは、実は情報の中身によってのみ定まるわけではないようです。漏洩された側からすれば「業務上非常に重要で、組織外の人間に知られれば営業上の損害を被ることが間違いない情報」であっても、それだけでは営業秘密としては扱われず、損害賠償を求めても裁判で認められないということがあります。

 では、情報が営業秘密とみなされるためには何が必要となるのか。この話題は、本連載において前回も扱ったのですが、同様の事案が後を絶たないことも踏まえ、今回もあえてこれについて取り上げ、組織が自らの情報を守るために何が必要となるのかを、もう少し具体的に考えてみたいと思います。まずは事件の概要からご覧ください。

東京地方裁判所 令和7年4月24日判決

 電子応用製品の設計や製造を手がける原告企業の元取締役(被告側)が退任後に新会社(被告側)を設立し、そこで原告が社内サーバーに保管していた電子基板設計データを持ち出して利用した。原告は、この設計データが自社の営業秘密にあたり、競合会社である被告会社の事業活動に不正に利用されたと主張したが、被告側は、データは社内の共有フォルダに保存されていて特段の管理もなく、一般的な仕様に基づく設計にすぎないため営業秘密には該当しないと反論し裁判となった。

出典:裁判所ウェブ 事件番号 令和3年(ワ)第10753号

 この裁判では、ここで取り上げた電子基板設計データ以外に、顧客情報についても問題となったのですが、少し話が発散してしまうため、ここでは設計データのことについてのみお話しします。

 情報が営業秘密にあたるかどうかは、以下が条件とされます。

  1. 秘密管理性:その情報を組織が秘密として管理していること
  2. 有用性:事業活動に役立つ情報であること
  3. 非公知性:一般に知られていない情報であること

 このうち「2][3]については、私たちの常識からも容易に理解できることと思います。ただし[1]については、「秘密として管理している」とは具体的にどういうことなのかが若干抽象的で、人によって解釈が分かれそうです。

 原告、被告ともに述べていることは事実で、確かにそのような管理がなされていたのだと推測されますが、では顧客情報がインターネットから検索できることと、設計データについてはどのように判断されたでしょうか。原告企業では、設計データは「社内アクセスに限る」というルールにしていたようです。そして当然のことながら、このデータに限らず社員たちとは秘密保持契約を結んではいたようです。

 こうした管理の仕組みは、「秘密情報」と認められるために十分だったのでしょうか。裁判ではこの点が一つの争点となりました。読者の皆さまはどのようにお考えでしょうか。裁判所の判断を見てみましょう。

東京地方裁判所 令和7年4月24日判決

 原告電子基板設計データは、社内NASサーバーの共有フォルダに保存され、アクセス制限もなく、従業員であれば自由にアクセス可能な状態であった。媒体に「秘密」等の記載もなく、被告個人も秘密として管理されているとの認識はなかった。よって、秘密管理性は認められない。

出典:裁判所ウェブ 事件番号 令和3年(ワ)第10753号

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裁判所の判断と企業の認識にズレ

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント
経済産業省デジタル統括アドバイザー兼最高情報セキュリティアドバイザ
元東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員
筑波大学大学院修了(法学修士)日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステム...

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