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駆け込みSAP移行が生む無駄とリスク──SNP Japanが問う「使うERP」への転換

SNP Japan マネージングディレクター 細谷修平氏インタビュー

クリーンコア戦略の実効性を問う

 SAPが推奨するクリーンコア戦略についても、細谷氏は複眼的な見方を持っている。アドオンをBTP(Business Technology Platform)に移植することでバージョンアップ時の検証コストを下げる方向性は理解しつつも、本質的な問いを投げかける。

 「BTP上にアドオンを作ることは変わりません。名前が変わって分別化されただけで、作るという行為は続く。本質的には“作るERP”から“使うERP”への発想転換が必要で、そのためにはカスタムコードを作ってよい条件を明文化することが大事です」

 欧米企業ではカスタムコードの作成条件を明文化しているケースが多い一方、日本企業は合議の積み上げで個別要件が増えていく傾向がある。経営者の判断でカスタムコードゼロを掲げるプロジェクトも最近は出てきているが、クリーンコアはあくまで手段であり目的ではない。コストに見合うかどうかの判断基準を自社で持ち、内製の管理体制を構築することが実効性の前提となる。なお、既存のABAPカスタムコードをAIで自動分析・変換するソリューションであるsmartShiftについても、2025年7月から日本市場への提供を開始しており、BMWでは2万件以上のカスタムオブジェクトの変換を4週間で完了した実績がある。

 データ管理の視点も忘れてはならない点だ、と細谷氏は加える。日々データが増加するなかで運用コストを抑制し、次の変革に対してもAI-Readyな状況を維持することが課題になる。SNPではコールドデータを自動的に識別して低コストストレージにアーカイブする「Active Archive」や、ECCを残置・維持しているケース向けにECCデータをコールドストレージに保管しS/4HANAからアクセス可能にする「Datafridge」を提供している。

1万5,000件で障害ゼロ──ツール移行が持つ構造的な優位

 SAPの大規模移行プロジェクトにおけるシステム障害は、近年、社会問題にまでなった。SNP Groupは、グローバルで15,000件を超えるSAPデータ移行プロジェクトを成功に導いてきた実績を有している。「人手による移行ではなく、ソフトウェアベースの移行なので過去グローバルで約1万5,000件のプロジェクトを支援した経験がありますが、問題が起こったのはゼロです」

 この品質を支えるのが「SNPオブジェクト」と呼ばれる事前定義済みの移行ルールセットだ。SAPの各業務モジュールにおいて、データ項目がどのバージョンのどのテーブルのどのアドレスに格納されるかを1,000近いオブジェクトとして定義・蓄積している。このアセットがあるからこそ、ソースからターゲットへのデータ移行が自動化でき、人手による移行プログラム開発に比べて品質が圧倒的に安定する。グローバルでも、Adobe Systemsでは100TBを超えるデータを持つ世界最大規模のSAPをダウンタイム20数時間で移行した実績がある。SAPコンサルタントの市場枯渇がプロジェクトの品質リスクを高める中、ツールによる自動化は品質の属人化を防ぐことにつながる。

 2027年のECC保守終了は締め切りだが、S/4HANAへの移行は単なるシステム入れ替えではない。HANAの力を使ってAIが需給を最適化し、ERPが経営判断の基盤になる──その未来への距離は、今回の移行で過去データをどれだけ持ち込めるかに左右されるとみられる。「作るERP」から「使うERP」への転換をどの程度の本気度で実現するか。移行設計の起点にその問いを置けるかどうかが、今後の競争力に影響しかねない。

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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)

ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...

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