日本IBMとJCBが描く、OpenText実装のリアル
続いて、実際にOpenTextを活用しているユーザー企業が登壇し、OpenTextのデータ基盤が、グローバルビジネスにどのように組み込まれて価値を生み出しているのか、具体的に語られた。
最初に登壇したのは日本IBM、HR(人事)領域におけるAI変革への挑戦が紹介された。同社は世界170ヵ国以上で約30万人の従業員を抱える巨大企業だ。そのHR領域において、従業員が給与明細や税務書類などに迅速かつ安全にアクセスするための環境を、OpenTextを活用して実現している。さらに「OpenText Aviator」を導入し、31の異なる言語で従業員からの問い合わせやワークフローの処理を実現した。この成功の裏には、自社の秘匿性の高いデータを外部モデルの再学習に利用させない厳格な「エンタープライズ・データポリシー」の適用、そして“クリーンデータ”の準備があったとする。
また、日本発の国際カードブランドのジェーシービー(JCB)では、どのようにミッションクリティカルなグローバル決済ネットワークを支えているのかが語られた。同社は2010年よりOpenTextのBtoB連携サービスを導入し、現在もデータ連携、特に精算データのやり取りなどで利用している。導入当初からデータ量が約60倍に増加した現在も、安定した伝送処理基盤を維持しているという。同社 システム本部でブランドネットワーク開発部長を務める細川真人氏は、ビジネス基盤の価値を高めていくために「AIの活用」を見据えているとして、データ連携基盤におけるAI活用に強い期待を寄せた。
データ基盤主導ではなく、ドキュメント起点の独自戦略
現在、エンタープライズAIの基盤構築には、大きく分けて2つのアプローチが混在している。一つは「データベース/データ基盤起点」のアプローチだ。これはSnowflakeやDatabricks、あるいはOracle Autonomous AI Lakehouseなどに代表される、膨大なトランザクションやログといった「構造化データ」をデータウェアハウスやレイクハウスに集約し、データベース内部で大規模な機械学習やLLMの呼び出しを行う、データエンジニアリング寄りの手法だ。
対して、OpenTextが主戦場とするのは「ナレッジ/コンテンツ起点」のアプローチだ。企業内に蓄積されたドキュメントや社内Wiki、契約書、メールなどの「非構造化データ」を対象として、LLMのRAG(検索拡張生成)やセマンティック検索と組み合わせる手法を採る。
企業データの多くは非構造化データだが、これらをAIに読み込ませる際、誰がどの文書を閲覧できるかというアクセス制御(ACL)やドキュメントのバージョン管理を厳密に維持することは極めて難しい。OpenTextは、この権限・ガバナンスを効かせた非構造データの管理において一日の長があり、これこそがデータベース専業ベンダーには容易に模倣できない強みとなっているだろう。
この戦略は、日本市場のエンタープライズ企業にとって極めて重要かつ現実的なアプローチとなるだろう。日本の大企業、特に製造業や金融、公共セクターでは、厳格なコンプライアンス要件やデータ主権の観点から、すべてのデータを安易にパブリッククラウドへ移行できないケースも多い。また、長年の業務で蓄積された膨大なレガシー文書や非構造化データがサイロ化するという課題も抱えている。
OpenTextが掲げる「データを移動させずにAIを適用する」という思想や、クラウドネイティブでありながらオンプレミスやプライベートクラウド(ソブリンクラウド)にも柔軟に対応できるデプロイモデルは、外資系SaaSへのデータ集約に対する抵抗感やオンプレミス回帰(ハイブリッド運用)のニーズといった、日本企業特有の制約をクリアするための現実的なアプローチとなるだろう。自社に閉じた安全な環境を維持したまま、既存のコンテンツ管理システムの上に統合的なAIファブリックをアドオンできる。この仕組みは、情報漏洩リスクを抑えつつ、DXを加速させる強力な武器となるだろう。
AIが単なる対話・要約のツールから、自律的に業務プロセスを遂行する「エージェンティックAI(Agentic AI)」へシフトするこれからの時代。その真価を最終的に引き出すのは、LLMの能力以上に、基盤となる「コンテキストをもった、高品質な情報のキュレーション」だ。
顧客がOpenTextをパートナーとして選ぶ理由は、データの信頼性を長きにわたり実直に守り抜いてきた実績への評価にほかならないだろう。その重責を担うOpenTextが、AI実装の壁とレガシーのジレンマに直面する日本企業に進むべき道筋を示す可能性は高そうだ。
この記事は参考になりましたか?
- 週刊DBオンライン 谷川耕一連載記事一覧
-
- なぜ日本IBMやJCBは「OpenText」を選ぶのか? 失敗しない「エンタープライズAI...
- 「IoTのソラコム」から「社会のOS」へ 10年で海外売上45%を遂げたCEOの“IoT×...
- 2026年はAIエージェント「実行」の年へ UiPathが説く、7つのトレンドと日本企業の...
- この記事の著者
-
谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア
