経営層はやる気なのにDX人材はなぜ育たない?──四国電力260人を動かした、牽引者の“執念たる気概”
#8:四国電力 総合企画室 DX推進プロジェクト 副リーダー 伏見初美さん
DX人材をどう育成すべきかは、日本企業共通の悩みだ。資格を取得しても実務で使われない、研修を受けても現場は変わらない。形骸化の壁は厚い。そんな中、「きっかけさえ作れたら、人はどんどん自分自身を越えていける」と信じ、試行錯誤を重ねてきた人がいる。四国電力グループのDX人材育成を牽引する伏見初美さんだ。スタートからわずか1年半で、DX人材は260人を超えた。一体、何をしたのか。(※所属・役職は2026年1月の取材時点のもの)
DX人材がなかなか育たない……どう打破する?
総務省が発表した『令和7年版 情報通信白書』によると、デジタル化に関する課題として「人材不足」を挙げた日本企業は48.7%で、米国・ドイツ・中国と比較しても突出している。一方で「経営陣が乗り気ではない」と答えた日本企業はわずか6.8%。意外にも(?)他国と比べると理解が得られている状況にあるのだ。経営層の意欲はあるのに、人材が育たない。これが日本のDXが抱える課題である。
他にも、日本企業は「明確な目的・目標が定まっていない(27.4%)」が際立っている。
一方「アナログな文化・価値観が定着している」「DXの役割分担や範囲が不明確」は他の国も悩んでいるようだ。
引用:総務省『令和7年版 情報通信白書』
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そんな中、独自のDX人材育成プログラムで成果を上げ始めている企業がある。四国電力グループだ。四国電力グループは、2段階でDXを進めてきた。2023年度末までのフェーズ1では、意識改革やシステム基盤の整備など土台づくりに注力。2024年度以降のフェーズ2では、DXを実践できる人材の育成とデータ活用に軸足を移し、既存事業の高付加価値化にとどまらず、新規事業・新サービスの創出を目指している。
人にフォーカスする理由はいたってシンプルで、どんなに優れたAIやシステムも、使いこなして価値に変えるのは人であるからだ。だからこそ、事業環境の変化や社会課題に即応できる人材を、中長期的な視点で育てることが不可欠だという。
この動きの中心にいるのが、総合企画室DX推進プロジェクト 副リーダーの伏見さんだ。情シスのキャリアに加え、広報や人材育成の経験を持つ。そして何より、誰とでもすぐに打ち解ける底抜けの明るさがある。壁を作らず話しかけてくれるので、とあるイベントで初めてお会いしたとき、前からの友人だったかと錯覚を覚えたほどだ。「変革の主役はシステムじゃなく、それを使う人」。伏見さんはそう言い切る。
研修あるある“形骸化”させないために、制度設計でのこだわり
四国電力が運用する「DX人材認定制度」は、初級・中級・上級の3段階で構成される。初級はDXの基本知識の習得が中心だが、中級・上級の認定は、経済産業省とIPAが策定した「デジタルスキル標準(DSS)」をベースに「DXビジネス人材」と「デジタル技術人材」の2パターンに分かれ、それぞれにDXリーダー・DXデザイナー、データサイエンティスト・DXエンジニアの4タイプが設けられている。認定を受けた社員には、その証としてオープンバッジが発行される。
引用:四国電力「DX人材育成」
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DX人材育成では、陥りがちな落とし穴がある。資格は取ったが実務で使われない、研修を受けてやる気になっても、持ち場に帰るとまたぬるま湯に戻ってしまうといった「形骸化の壁」だ。伏見さんはそうなることを最初から意識して制度を設計したという。工夫したポイントは大きく2つある。
1つ目は、入口のハードルを意図的に下げたこと。初級は指定のeラーニング講座(75講座の中から5つ以上)を受講し、認定テストで基準点を超えれば取得できる。ITパスポートなど公的資格の保有者はそのまま認定される。「まず裾野を広げ、DXへの追い風を吹かせたかった」と話す。
2つ目は、中級以上は業務効率化や業務改善、勉強会への積極的な参加などといった「なんらかの実績」がなければ研修に申し込めない仕組みにしたことだ。研修後も受講レポートの提出と審査があり、「これから実務でどう活用するか」までを問う。学んで終わりではなく、現場でどう価値につなげるか、具体的なイメージを膨らませたうえで送り出すのだ。
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酒井 真弓(サカイ マユミ)
ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...
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