経営層はやる気なのにDX人材はなぜ育たない?──四国電力260人を動かした、牽引者の“執念たる気概”
#8:四国電力 総合企画室 DX推進プロジェクト 副リーダー 伏見初美さん
“矢のような催促”で2人のキーマンに資格取得を迫る
前述の『令和7年版 情報通信白書』によると、日本企業の経営陣はDXへの関心は高い。しかし、自らデジタルを活用したり、勉強会に参加したりとなるとどうだろう。経営層の関与は掛け声に終わりがちなのではないだろうか。伏見さんは、経営層にもDXを自分事として捉えてもらうために動いた。
まずは、宮本喜弘社長と宮崎誠司CDOに初級を取得してもらうこと。伏見さんは、多忙な2人の負担を少しでも減らすため、75講座の中から受講しやすいように順番まで配慮した「伏見のおすすめリスト」なる特製の厳選講座集を作った。それでも、伏見さんから醸し出される圧は相当のものだったようで、後に宮崎CDOから「ほんまに矢のような催促やったな(笑)」と言われたという。「ただ『応援してます』と伝えただけなんですけどね」と伏見さんは笑う。その言葉を額面通りに受け取る人はいないだろう。
宮本社長と宮崎CDOが初級を取得すると、認定者リストのトップに2人の名前が並び、食堂へ向かうエレベーターの前のデジタルサイネージに表示された。「社長もCDOも取ってるやん……」。その事実はどんな掛け声よりも雄弁で、社内の機運を高めることができたという。
中級認定者への通知にも、ひと工夫が施されている。宮崎CDOの直筆サインと「期待しています」というメッセージが添えられるのだ。「認定者への期待と称賛、そしてプレミア感を伝えたかった」と伏見さんは言う。さらに全認定者にはデジタルバッジを発行。宮本社長が率先してメール署名にバッジを表示したことで、「これは何だ」と役員の間でも話題になった。
そんなふうに経営層の反応があるたびに、伏見さんはすぐさまTeamsで社員に共有する。小さな動きも見逃さず、挑戦する人たちの背中を押し続けたのだ。
遊び心ある仕掛けで「やってみたい」を誘発させる
DX人材育成で最も難しいのは、いかに「やってみたい」と思わせるかだ。「やらされてるイメージを払拭し、自分から挑戦したくなる仕掛けが必要だった」と伏見さん。「見える化」「称賛」「プレミアム感」「遊び心」の4つを軸に、様々な施策を打ってきた。
まずはDX人材だけがもらえる認定シールだ。これに加えて、中級以上には「キャラクター入りのキラキラシール」も用意した。「誰がDX人材なのかひと目で分かるようにしてほしい」という現場やDX人材からのリクエストを受けて、伏見さんがシールの作成を手がけた。キャラクターシールのデザインには、四国4県のモチーフを取り入れ、愛媛はミカン/道後温泉、香川は讃岐うどん/瀬戸大橋、高知はかつお/はりまや橋、徳島はすだち/渦潮。初級は1種類、中級はプレミアム感を2種類から好きなほうを選んで貼れる仕様で、他社との会議などでアイスブレイクになるという。
現場での実践を後押しするための取り組みの一つが社内表彰「BXアワード」だ。1年間の成果を公募し、予選と本選を経て表彰する。宮崎CDOも選考の審査から表彰まで関わるという。ここにも伏見さんの執念が宿る。複数人のチームで取り組んだ場合でも一人あたりの賞金が少なくなりすぎないよう、関係部署と粘り強く交渉し、従来を大きく上回る賞金の支給を実現した。
プレミアム感は、中級人材以上を対象にした体験型の企画にも及ぶ。夏には新規サービスのアイデアをチームで競う「サマーチャレンジプログラム」を開催し、秋にはトヨタ自動車と共同で研修ツアーを実施した。参加者からは「DX先進企業のトヨタ自動車の方と対等に話せて、すごく自信になった」という声が上がったという。ツアーが終わると、伏見さんは参加者一人ひとりのチャレンジ宣言を社内ポータルサイトの記事にまとめた。宮本社長も「いい研修になったようですね。皆さんの成長が楽しみです」とコメントを寄せた。
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酒井 真弓(サカイ マユミ)
ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...
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