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週刊DBオンライン 谷川耕一

データベースの主役はAIエージェントに “未知の負荷”をどう捌くか?「TiDB X」から探る

メタ買収で話題の「Manus」が採用 長期記憶を支えるためのロジックとは

 ユーザーのプロンプトに応答するだけの「生成AI」から、自律的に計画を立案し、環境に適応しながらタスクを実行する「AIエージェント(Agentic AI)」へパラダイムシフトが起きつつある。AIエージェントは、過去の文脈やユーザーの好みを記憶し、パーソナライズされたサービスを継続して提供する。そのためには、長期記憶となるデータベースの存在が不可欠だ。しかし、従来のデータベースは、人間やアプリケーションからの「ある程度予測可能なワークロード」を前提に設計されてきた。一方AIエージェントは、タスクごとに無数に生成され、予測不可能かつ膨大なトランザクションを発生させる。そこで、データベースの主役が人間からAIエージェントへ交代する時代を見据え、PingCAPは変化に対応するためのデータベースとして、新たなアーキテクチャをもつ「TiDB X」を投入した。

データベースの主役が交代、AIエージェントがもたらす「未知の負荷」

 従来のデータベースのユーザーは人間、あるいは人間が設計・構築したアプリケーションだった。そのため、システムに対して発行されるSQLの種類やアクセスパターン、ピーク時の負荷はある程度予測できる。RDBMS運用のためには、事前にテーブル定義を最適化し、クエリの実行計画を考慮したインデックスを張る……これらはデータベースエンジニアにとって定石だった。

 また、大規模なエンタープライズシステムにおいても、同時アクセスユーザー数は、数千人から数万人規模に収まるケースが多い。しかし、AIエージェントがデータベースの主要ユーザーとなる時代には、これらの前提が大きく覆される。

 まず、AIエージェントはユーザーの依頼やタスクごとに無数に生成されていく。そのため、ユーザーとなるAIエージェントの規模は数千万、あるいはそれ以上の単位へと爆発的に膨れ上がる可能性がある。さらに、AIエージェントが人間の意図をくみ取り、自律的に動く過程においては、都度独自のSQLをオンデマンドで生成してデータベースに直接アクセスしてくるため、負荷や処理速度などで新たな課題が生じるはずだ。

 人間が構築したアプリケーションであれば、決められたパターンのSQLを効率よく大量にさばくことが、データベースの性能指標だった。しかし、AIエージェントはテーブル定義を見て、インデックスが効きやすい検索条件を優先するといった“システムへの配慮”はない。インデックスの有無にかかわらず、縦横無尽にデータを操作する「未知のクエリ」が、無作為かつ大量に発行される。

 AIエージェントがもたらすワークロードは、極めて動的かつ不確実なものだ。従来のアーキテクチャではそれらに対応しきれず、未知の負荷をデータベースに強いることとなる。

NewSQLのTiDBは「TiDB X」としてアーキテクチャを刷新 

 PingCAPは2025年7月、同社が提供するフルマネージドサービス「TiDB Cloud」のエントリープランの名称を「TiDB Cloud Serverless」から「TiDB Cloud Starter(以下、Starter)」に変更した。この変更は、単にユーザーへわかりやすい名前を提示するためのマーケティング施策にとどまらない。刷新の背景には「TiDB X」という、AIエージェント時代を見据えた新たなアーキテクチャがある。

 そもそも、旧Serverlessの設計思想は「すべての開発者に、オンデマンドで独立した自分専用のデータベースをもってもらう」という構想だったと話すのは、PingCAP シニア・ソリューションアーキテクトの関口匡稔氏。クラウド環境において、無数のユーザー1人ひとりに対して物理的なデータベースインスタンスをあらかじめ用意し、常時稼働させておくことは現実的ではない。そこでPingCAPでは、ユーザーが実際にクエリを発行していない待機時にはコンピュートリソースの消費をゼロにし、クエリが到達した瞬間にのみリソースを動的に割り当てる仕組みであるTiDB Serverlessを構築した。この構想は、2021年頃からあったという。

 TiDB Xは、この考えをAIエージェント向けに進化させたものだ。データベースを利用する主体が人間からAIエージェントへと移り変わる中、「AIエージェント1つひとつに対し、他者のデータと混ざらない、完全に独立した論理的なデータベース空間を瞬時かつ無数に提供する」と関口氏。PingCAPでは、そのための新たなデータベースが必要となると考えた。そして、約4年にわたり旧Serverlessとして実際のプロダクション環境で培われてきたアーキテクチャの延長線上に、今回のTiDB Xを位置づけたのだ。

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S3を中核に据えた「Shared Everything」への転換 計算とストレージの完全分離がもたらす俊敏性

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この記事の著者

谷川 耕一(タニカワ コウイチ)

EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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