“くら寿司流DX”の立役者・中林章氏が「鳥貴族」擁する新天地で挑む、デジタル×ホスピタリティの実現
「エターナルホスピタリティグループ DX戦略説明会」レポート
目指すは「全業務リアル連携」 まずは年間2,000時間を削減へ
中林氏は、飲食店における従来のIT投資が、予約、注文、会計といった特定の機能ごとに閉じた垂直型であったことを課題として挙げる。これに対し、同社が新たに打ち出した設計方針は、「店舗を起点に、あらゆるビジネスプロセスをリアルタイムで同期させる」ことだ。
「単にシステムをつなぐのではなく、現場で起きた事実がリアルタイムで経理や人事、経営管理へと反映される『鏡』のような仕組みを目指しています」(中林氏)
具体的には、店舗での一皿の注文が、即座に食材の在庫減につながり、自動発注プロセスを起動させ、さらには月次決算の仕訳データとして経理システムへ流れていく。このプロセス間、業務間のリアルプロセスこそが、経営のスピードを高める源泉となる。
その一例として紹介されたのは、3ヵ月という短期間で改善した「月次決算の早期化」だ。かつて店舗の経費精算は「紙とExcel」によるアナログな運用が常態化しており、店長やエリアマネージャーの大きな事務負担となっていた。入力ミスがあると経理側の負担にもつながる。中林氏はこれを2026年1月にデジタル化。具体的に、店長が受領したレシートをスマホで撮影し、AI-OCRによって自動にデータ化し、マネーフォワード経由で会計システムへ自動連携する仕組みを構築した。この改善だけで、グループ全体で年間2,000時間以上の間接業務削減を見込んでいるという。
顧客対応のコミュニケーション基盤も2026年3月に一新する。店舗で起きたトラブルやクレームのほか、ホームページ等で直接寄せられるものなど様々あるが、店舗で起きたものは、メールで本部に連携されているという。しかし、根本解決できているのか一部把握できない状況にあったという。そうしたインシデント対応を仕組み化すべく、同社はServiceNowの導入を決めた。
「従来は店長のマニュアル対応に頼っていた領域を、AIによる解決支援やナレッジの自動蓄積によって、若手店長でもベテラン並みの対応ができるよう底上げします」(中林氏)
ServiceNowを導入し、インシデント把握率100%を目指すとしている。人のスキルに依存しがちなホスピタリティの品質を、テクノロジーによって標準化・高度化する試みといえる。
これらの戦略を支えるシステム基盤では、サイバーセキュリティ対策は欠かせない。同社は、VPNを廃止し、Zscalerを中心としたゼロトラストネットワークへの刷新を進めているとした。
「セキュリティ対策を単なるコストや制約にしてはなりません。ハッカーの侵入を防ぐ『入口防御』を徹底するのは当然ですが、同時に社員がどこからでも安心してシステムを使える利便性の向上を両立させることが、DXを加速させるための条件です」(中林氏)
万が一のマルウェア感染時にも、EDRによって被害を局所化し、拡散を物理的に防ぐ仕組みを構築している。これにより、グローバル展開を加速させる同社にとって、世界のどこからでも安全にデータにアクセスできる環境を整備するという。
データ&AIプラットフォーム基盤には、HTAP(Hybrid Transactional/Analytical Processing)やベクトルDBを採用し、膨大なリアルタイムデータとAIエンジンの連携を可能にしている。店舗での注文状況を瞬時に経営ダッシュボードや供給網へ反映させ、全社レベルでの最適化を実現するとした。
売上1%の投資で売上10%の「成果」を出す
会見の締めくくりに、中林氏は経営者や専門家が最も注視する投資効率(ROI)について、「売上1%の投資で、売上10%アップを目指す」と明確な指針を示した。売上10%とは、約40億円増となる見込みだ。これは、IT部門を単なる「コストセンター」と見なすのではなく、トップラインを押し上げる利益の源泉と再定義することを意味している。
「外部環境を常に意識しながら、人とデジタルの力で外食という産業そのものを変革していきたい」と中林氏は意気込む。労働集約型ビジネスである外食産業において、テクノロジーを駆使して顧客価値の向上を目指す、同社の挑戦に期待がかかる。
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小山 奨太(編集部)(コヤマ ショウタ)
EnterpriseZine編集部所属。製造小売業の情報システム部門で運用保守、DX推進などを経験。
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