「AI Control Plane」を支える5つの製品群
クマール氏の言葉が意味するところをセールスフォースのプラットフォーム製品群から考えてみたい。AIハーネスの構築はデータの準備から始まる。これは簡単なステップではない。AIだけでなく人間が使う場合を考えても、データの整備が十分ではないためだ。さまざまな目的のために構築したデータレイク、データウェアハウス、そして各種アプリケーションの中にデータが分散しており、データエンジニアがクレンジングやキュレーションを行わなくてはならない。このとき、データをAIが使えるようにサポートするのがInformaticaだ。
その上で、次のステップである「コンテキストの構築」をData 360が担う。たとえば、カスタマーサポートへの問い合わせがあったとする。その顧客が個人ではなく企業の場合、その事業内容や事業課題まで理解しておくことで、その場限りの“感じの良い対応”で終わらず、中長期的な取引拡大につながる購買シグナルまで得られるかもしれない。次の打ち手を講じる上で、不可欠な情報がコンテキストの核心となる。そして、コンテキストの構築に必要なデータは、Salesforceだけに存在するとは限らない。むしろ、外部にある場合が多いだろう。これを物理的にコピーすることなく、Salesforce内のデータとあわせてコンテキスト構築に使うための仕組みとして、Data 360にはゼロコピー機能が備わっている。
また、コンテキストの構築とあわせて重要なのが「ビジネスセマンティクス」の定義だ。業種・業態あるいは企業ごとに、ビジネスにおける概念の捉え方や用語の意味は異なる。社内文書における「第3四半期」という用語は、3月決算の多い日本企業内では10月〜12月を意味するが、12月決算の企業では7月〜9月を意味するといった具合だ。この他にも「収益」のように、業種が変わると意味が異なる言葉が多く存在する。単なるデータベースのフィールド名としてではなく、自社における“言葉の意味”を定義することが、エージェント利用におけるコンテキストの強化につながる。そのためのツールが「Tableau」だ。
ここまでの要素だけでもエージェントは強力になるが、「エージェントの動作が、機密データの流出に代表されるセキュリティリスクをもたらすのではないか」という懸念も軽視できない。そこで、セールスフォースが新しく提供するのが「Salesforce Guardian」である。これはSalesforce ShieldやSalesforce Trusted Servicesを統合・進化させたセキュリティスイートで、意図しない動作や暴走するエージェントを検知するためのエージェントアイデンティティ、データライフサイクルからの保護を目的とするデータセキュリティを重視したものだ。
さらに、ITリーダーがカバーすべき新たな領域「AIガバナンス」も欠かせない。今後、特定のチーム・部署の壁を越えて、エージェントが人間と共に働く将来がやってくる。特に重要になりそうなのがコストマネジメントだ。既にカスタマーサポートのエージェントが(会話の途中から)対応を人間のスーパーバイザーに引き継いだ場合、そのコストを誰が負担するのかという問題が浮上している。
ここまで見てきたようにデータを整備し、適切なコンテキストをモデルに提供することで、無駄なトークンコストを減らすことはできるだろう。そのためにも、すべてのエージェントの稼働実績を可視化し、適切に運用していくための環境が必要だ。それを提供するのがMuleSoftの進化版「Agent Fabric」となる。本格的なエージェント時代の到来において、セールスフォースが発表した新たな戦略には大きな役割が期待されそうだ。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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