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コンシューマー機器はネットワーク化する時代へ

(第17回)


 8月の中盤から後半にかけて、テクノロジー業界はグーグルのモトローラ社買収とHPの発表したM&Aを含めての戦略転換のアナウンスに揺れた。前回は、HPの動向から見えてくるプロダクトポートフォリオ管理の限界について解説したが、グーグルのモトローラ買収について考える前に、今回はコンシューマーハードビジネスについていくつか紹介してみよう。

コンシューマーPCの組み立て販売は、儲からない商売の代名詞

 コンシューマーPCのビジネスが大きく花開いたのは80年代以降からで、好事家のものではなく一般化が強力に進んだのはWindows95の発売と、同時期に始まったインターネットサービス以降となる。以来近年に至るまでテクノロジー業界での花形商売の一角を占めてきた。

 iPod、iPhone登場以降はトーンが少し変わったものの、ジョブズにしても巨大なマシーンとしてでしか使えなかったコンピューティングが個々人の手に入り、PCによって世界は変わるのだというビジョンと熱意が行動の根底に見え隠れしていた。

 しかし、現在においては、コンシューマーPCの組み立て販売の分野は、儲からない商売の代名詞となりつつある。ノートPCにしても、普及機は最新機種が3万、4万から手に入る状況になっており、多少のスケールメリットを得た程度では商売としてはもはやどうにもならない。国内の最大手の一角だったNECも単独解決は諦めてレノボと合弁化することを決定した。

 グローバル最大手の一角であるデルにしても、コンシューマー分野での競合が対エイサー、対レノボとすると劣勢の感が否めない。同社のビジネスの主軸は法人向けとなっており、商材がPCハードを軸としているためビジネスモデルは異なるものの、HPやIBMと似た道を実質的に歩むことになってきている。

 「コンシューマーPCの組み立ては儲からない」、「コアデバイスか周辺サービスをやらないとどうにもならない」というのが、2000年代前後からつぶやかれていたビジネスルールであった。ここに完全受注生産による在庫コストマネジメントを切り替えたデルのアプローチと、巨大化と寡占化で調達スケールを維持するタイプのHP型、自社工場を保有せず製造を完全に外部委託するファブレス生産の集約メリットと労働力および為替安の好条件を上手く使った台湾・中国型が競争する構図が2000年代後半までの整理図となるだろう。

「利益は二の次」躍進する中国のファブレス系プレイヤー

 2010年代に入ってからの競争は、さらに進んで、単純な形での組み立てプレイヤーは存在しえないレベルに入ろうとしている。

 製造モデルの議論として競争の段階を塗り替えつつあるのは、中国のファブレス系のプレイヤーである。彼らは、組み立て商売を実質的に利益なしで提供するような動き方を取りつつある。仕組みとしては単純で、OSやチップなどのどうにもならないコアデバイスを除いて、部品をなるべく内製化していることにある。つまり、組み立て外注ビジネスをタダ売りして、グループ内の部品利益でもって全体として薄いけども利益を得て還元するという商売である。

 このモデルが相手では、部品を調達して組み立てをするプレイヤーは存在しえないことになる。なぜなら、バリューチェーンの組み立て部分のマージンが構造上ゼロになっているからである。勝負をしたいのなら、大規模な調達をかけてファブレス企業の内部生産コストよりもさらに低いコストで部品を仕入れるしかないが、ファブレス企業が着々と大きくなると、このアプローチにも限界がある。彼ら自身がスケールメリットを得るからであり、為替との兼ね合いもあり状況的にはスケールの勝負は難しい状況にすでにある。

 対HPという意味においては、PPM(プロダクトポートフォリオ管理)戦略を押しつぶす側面があることも指摘しておきたい(なお、HPのPPM戦略については前回紹介している)。いわゆるMBA的なビジネス設計としては、利益の出る分野の事業を選択する、バリューチェーンの利益の出るところに集中して余計なものは触らないことで利益率を高めていくというのが基本思考となる。いかにして美味しいところだけを探り当て、確保するかに主眼がある。基本的に目指すものが資本効率と利益率だからである。

 しかし、ファブレス企業のやり方は真逆にある。抱えるところだけ抱えてしまう彼らのやり方の前には、美味しいところだけ保有するとの行動パターンの存在そのものを許さない。経営としては、利益はやや二の次になっており、実際にROAやROEではマイナスにはなっておらずとも伸びきらないという面があることから、いわゆる資本利益率を意識した経営思想からすると筋は良くない。無駄を大量に抱えた仕組みだからである。ウォール街の好むタイプではないだろう。

 利益よりも重視されているのは、市場確保、大きくなると市場支配であり、利益がまったくない状況はさすがに想定していなさそうだが、商売を大きく抱えることの方に意識が向いているように見える。金融プレイヤーの側面を持ちがちな米国企業には基本取りづらいビジネススタイルである。

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この記事の著者

渡辺聡(ワタナベ サトシ)

神戸大学法学部(行政学・法社会学専攻)卒。NECソフトを経てインターネットビジネスの世界へ。独立後、個人事務所を設立を経て、08年にクロサカタツヤ氏と共同で株式会社企(くわだて)を設立。現同社代表取締役。大手事業会社からインターネット企業までの事業戦略、経営の立て直し、テクノロジー課題の解決、マーケティング全般の見直しなど幅広くコンサルティングサービスを提供している。主な著書・監修に『マーケティング2...

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