ERPに始まりSCM、CRMと、さまざまな業務アプリケーションを導入していった結果、マスタデータが散在してしまい、その管理に手を焼く企業が増えてきているという。こうした課題を解決するためにあるのが、MDM(マスタデータ管理)だ。今回、このMDM分野のトップベンダーである米インフォマティカのエキスパートに、MDMの現状や課題について話を聞いた。
ビジネスのグローバル化に伴い重要性を増してきたMDM

― キムさんは、MDMの分野に長く携わっておられるとお聞きしています。
2005年から6年間、オラクルのアジア太平洋地域におけるMDMビジネスに携わってきました。その間、40社以上のグローバル企業のMDMプロジェクトに参画してきました。その後、2011年からはインフォマティカで、アジア太平洋地域と日本におけるMDMビジネスを統括しています。
― 2005年以降、MDMの分野ではどのような変化が起こっていますか?
2004、2005年ごろから、多くのITベンダーがMDMソリューションに力を入れ始めましたが、その背景には大手企業におけるビジネスのグローバル化の進展があります。グローバルビジネスをサポートするためには、さまざまな種類のアプリケーションが必要です。さらには、それらのアプリケーションはさまざまな地域で運用されます。すると、アプリケーションごと、地域ごとにばらばらにマスタデータが存在することになります。
このままでは、ある特定の顧客が異なる地域や異なる販売チャネルで同じメーカーの商品を買っても、それらの情報は異なるマスタデータとして管理され、互いに関連付けられることがありません。よって、その顧客の購買行動を全体的に把握できず、適切な販促をかけることもできません。これはほんの一例ですが、グローバル市場で長期的に収益を担保するためには、やはり整合性と精度が高いマスタデータが不可欠です。多くのグローバル企業がこのことを、ここ5、6年の間で強く認識するようになりました。
― MDMへの取り組みは欧米企業が先行しているかと思いますが、アジアにおける取り組みの状況はどのようになっているのでしょうか?
アジア太平洋地域でいえば、韓国やオーストラリアでは既に多くの導入事例があります。またマレーシアでも、大手企業によるMDMへの取り組みが見られます。どの事例でも、企業自身がMDMの重要性を強く認識した結果、その取り組みに乗り出しています。ちなみに日本に関しては、インフォマティカのMDMビジネスはまだ立ち上がったばかりです。
タンクや蛇口(アプリ)を置き換えても水(データ)が濁っていては意味がない
― これまで、数多くのMDM導入事例を見られてきたかと思いますが、一般的に企業がMDMに取り組む際、どのようなことが課題になるのでしょうか?
大きく分けて、3つの課題を挙げることができます。1つ目は、多くの企業がそもそも、MDMの必要性をきちんと理解していないということです。これを、水道の例を使って説明してみましょう。水道は貯水タンクやパイプ、ポンプ、蛇口などで構成されています。この水道が老朽化してきたので、刷新することにしたとしましょう。多額の予算をかけて真新しいタンクや太いパイプ、ピカピカの蛇口に置き換えたとします。しかし、もし水道の中を流れる肝心の水が濁っていたとしたら、いくら設備を新しいものに置き換えてもまったく意味がありません。
同じことが、企業のITシステムにも言えます。水道をITシステムに置き換えれば、タンクは基幹系アプリケーション、蛇口は情報系アプリケーション、ポンプはDWHやBIに当たりますが、ITシステムのメンテナンスで企業が重視するのは、これらアプリケーションのリプレースタイミングです。しかし肝心の水、つまり中を流れるデータの品質が悪ければ、いくらアプリケーションを刷新してもシステム全体としてはうまく機能しません。
― アプリケーションのリプレースばかりに目が行ってしまって、肝心のデータの重要性が十分に理解されていないということですね。
その通りです。さらに言えば、一歩進んで企業のビジネス部門が、マスタデータの質を高めることで先ほど述べたようなクロスセルやアップセルの機会が増大し、ビジネス上のさまざまなメリットを得られることに気付いたとしましょう。しかしIT部門側は、このことをなかなか身をもって理解できません。にもかかわらず多くの場合、MDMのプロジェクトはIT部門主導で行われています。その結果、せっかくMDMを導入しても、ビジネス部門の本来のニーズにそぐわないものが出来上がってしまいがちです。これが、第2の課題です。
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吉村 哲樹(ヨシムラ テツキ)
早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。その後、外資系ソフトウェアベンダーでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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