突発的な事象に対し的確に制御するには人手ではダメ
これら要件を満たすために、3つの方針が立てられた。
まず、統合化ベースとなるシステムは、旧RMSとした。4つのシステムの中で、一番高可用性を求められるRMSに集約すると考えたという。
そして2つめが、Autonomic。自立的でメンテナンスフリーを目指すことで、開発の部門の負荷を軽減する。金融の世界では、一般には枯れたものを使うと言われているが、今回は最新技術、最新バージョンのものが使われた。新しい技術を積極的に使うことで、掲げられた要件を低コストに実現する道が選ばれたのだ。
この新たな統合CRMの環境に選ばれたのが、DB2 9.8 pureScaleとWebSphere Virtual Enterpriseの組み合わせだった。この組み合わせとなったのは、もとのRMSがDB2ベースの仕組みだったことに加え、pureScaleの仕組みが「スケールアウトが容易」だと判断したからだと井澤氏。そして、この拡張性に加えてシステムが全面停止しない高可用性を併せ持っていることが、pureScale採用のポイントとなった。
そして、このpureScaleに、WebSphere Virtual Enterpriseを組み合わせたことで、「システムを止めない、それを自動的にやってくれる」ことも採用のポイントとなった。今回の統合CRMでは、旧RMSやFIRSTの「大量で比較的軽い処理」と、S-CRMやお客様ナビの「少量で重い処理」が同居することになる。その状況で、WebSphere Virtual Enterpriseを利用することで、種類の異なる処理に対し優先順位をかなり細かいレベルで設定でき、それによりダイナミックかつインテリジェントに制御できる。
たとえば、ノード障害が発生したような場合に、単にシステムが停止せずに処理を継続できるだけでなく、そのときのシステムの状況によりどの処理を優先させるかまでを考慮するとなると、人手による制御ではうまくいかない。処理ごとに必要なレスポンスを維持し負荷を適切に分散することで、ユーザーは障害が発生したことに気付かずにシステムが継続される。これは「Autonomicの制御でなければできない」と井澤氏は言う。
とはいえ、このAutonomicが希望するとおりに動くのかは当初は分からなかった。というのも、三菱東京UFJ銀行がpureScaleとWebSphere Virtual Enterpriseの組み合わせを採用しようとした2010年10月時点で、ほとんど実際にこの組み合わせで大規模なシステムの稼働事例がなかった。そのため、同社ではデータベースだけ、あるいはデータベースとアプリケーションサーバ両方に高負荷をかけたとき、ノード障害が発生したときなどを想定し、詳細な実証実験を行う。結果は、期待したとおりの自動制御が実現できたのだ。
「想像以上に、我々がこうなって欲しいという形で動くことが確認できました。Autonomicはメンテナンスフリーに近づいています。」(井澤氏)