「商標権」という言葉をニュースで聞いたことのある人は多いだろう。たとえば、偽ブランド製品を販売していた人が商標権侵害で逮捕されるといったようなニュースだ。ITの世界でも商標権に関する争いは多い。たとえば、今、米国において、AppleはAmazonによるAmazon Appstoreの名称の使用禁止を求めて提訴しているが、Amazonは、「アプリのストア」という一般名称を特定企業が独占すべきではないと反論している。このような争いの構図を理解するためには商標制度の基本を理解することが必要だ。
商標とは何なのか?
商標とは「商売として商品やサービスを提供する際に使用する名称やマーク」のことだ。iPhone、Panasonic、ナイキのマークなどはみな商標だ。さらに、あなたの家の近所にあるソバ屋の看板に書かれている店名も商標だ(ただし、おそらくは登録商標ではないだろう)。ここで、商標とは、あくまでも「商品やサービスと共に」使われるものであり、単なる名称やマークを指すのではないに注意が必要だ。

商標の価値は、商標そのものにあるというよりも商標に結びつけられたビジネスの信用に由来する。たとえば、「シャネル」という商標がついたバッグと「フランソワ」という商標のついた同等品質のバッグから選べるとしたらほとんどの人が前者を選ぶだろう。シャネルもフランソワもフランス人の名前だ。その点に違いはない。前者に価値があると多くの消費者が考えるのは、シャネル社が長年の間この商標を使って高級な製品を作ってきたことで、消費者の心理の中で「シャネル」という高級・高品質というイメージが結びついているからだ。
このように商標と結びついた消費者の信用こそが商標の価値だ(もちろん、「高級」だけに限らず、安価だが良質、信頼できる等々、様々な価値が商標に結びつき得る)。このような消費者の信用が結びついた価値ある商標を保護するための制度が商標制度だ。もし、そのような制度がなければ偽物商品がはびこり、本家がせっかく築いてきた信用が損なわれるだけでなく、消費者も信頼できると思って買った製品が偽の粗悪品であるというリスクを負うことになる。
ITの世界でも商標の価値は重要だ。インターブランド社による世界ブランド価値ランキングでApple、Google、Microsoft、IntelなどのIT系企業が常に上位にあることからもわかる。このような大企業でなくても、たとえば、ほとんどのネット系サービス企業では消費者に商標を認知してもらいブランドイメージを確立すると共に、他社にまぎらわしい名前のサービスを使わせないことが重要だろう
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栗原 潔(クリハラ キヨシ)
株式会社テックバイザージェイピー 代表、金沢工業大学虎ノ門大学院客員教授日本アイ・ビー・エム、ガートナージャパンを経て2005年6月より独立。東京大学工学部卒業、米MIT計算機科学科修士課程修了。弁理士、技術士(情報工学)。主な訳書にヘンリー・チェスブロウ『オープンビジネスモデル』、ドン・タプスコッ...
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