今回は、日本の著作権制度の重要要素である著作者人格権と著作隣接権について解説しよう。著作権法を複雑にしている要素でもあり、初学者がつまずきがちなポイントでもある。
多様な権利が関連する著作権法
実は、著作権法では「著作権」
日本の著作権法にはこれとは別に著作者の人格的権利、つまり、名誉、声望、クリエイターとしてのこだわり等を保護するための著作者人格権が定められている。著作者人格権は著作財産権とは異なり、譲渡したり、ライセンスすることはできない(たとえば、「教育を受ける権利」を売買したりできないのと同じだ)。
一般用語として「著作権」という言葉を使った場合には、狭義に著作財産権と同じ意味で使われる場合と、広義に著作財産権と著作者人格権を合わせた意味で使われる場合があるので注意が必要だ。
問題になりがちな同一性保持権
著作者人格権には、大きく同一性保持権、氏名表示権、公表権がある。同一性保持権は、著作者の意に反して著作物を改変されない権利、氏名表示権は著作物の公表において著作者の実名やペンネーム等の表示(あるいは表示しないこと)を求められる権利、公表権は未公表の著作物を勝手に公開されない権利だ(たとえば、私信を無断で公開された場合等に公表権の侵害が問題になり得る)。
上記の中でも、今日、特に問題になりがちなのは、同一性保持権だ。これは、今日のコンテンツ市場では既存の著作物を何らかの形で改変して利用することが多いこと、「著作者の意に反して」という比較的軽い要件で権利行使できてしまうこと、そして、(著作者人格権の一般的特性として)ライセンスや譲渡ができないことが大きい。本来は著作者の人格を守るための権利が財産権的に乱用されているとしか思えないようなケースが見受けられる。
たとえば、ゆるキャラの「ひこにゃん」の作者が著作権者である彦根市に対して同一性保持権を行使しようとした事件(後に和解)などがある。通常、公募であれば、著作権は(著作者に対価が支払われる見返りに)運営側に譲渡されるのが通常だ。著作者人格権は譲渡できず元の創作者に残ることを利用して、著作者が公募条件以上のコントロール権を求めたように思えた事件だった。
このような著作者人格権に関する問題を防ぐために、著作財産権の譲渡やライセンス契約において「著作者人格権を行使しない」特約を設けておくことが実務上よく行なわれる(たとえば、2ちゃんねるに書き込みを行なう際には、運営者に著作権(著作財産権)を無償で譲渡することに加えて、著作者人格権を行使しないことに同意する旨の表示が行なわれる)。
このような特約の有効性や妥当性については議論があるが、現状ではこうするしかない。
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栗原 潔(クリハラ キヨシ)
株式会社テックバイザージェイピー 代表、金沢工業大学虎ノ門大学院客員教授日本アイ・ビー・エム、ガートナージャパンを経て2005年6月より独立。東京大学工学部卒業、米MIT計算機科学科修士課程修了。弁理士、技術士(情報工学)。主な訳書にヘンリー・チェスブロウ『オープンビジネスモデル』、ドン・タプスコッ...
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