組織を創造的な体質に変える「クリエイティブ・シフト」(Creative Shift)を実現するためのひとつの鍵は、一人ひとりが「つくることによって学ぶ」ことができるようになることである。既存の知識を「学んでからつくる」のではなく、創造の活動のなかで「つくることによって学ぶ」のである。今回は、「つくることによって学ぶ」とはどういうことかを説明し、今回と次回で、そのような学びを支援するパターン・ランゲージである「ラーニング・パターン」を紹介する。そのあとに続く回ではラーニング・パターンを用いたプランニング(計画)やリフレクション(振り返り)、そしてダイアログ(対話)のワークショップについて取り上げていく。
創造活動のなかで「つくることによって学ぶ」
創造的な組織は、絶えず新しいことに挑戦し、これまでにない事態に頻繁に直面することになる。なぜなら、「創造とは一種の“冒険”」だからである。そのような冒険的な創造活動を続けていくと、手持ちの知識やスキルでは足りなくなってくる。そのため、「つくる」ことに取り組むとともに、知識やスキルを高めることも考えなければならなくなる。しかし、フロンティアを開拓している最中に、知識やスキルの獲得のための時間を十分に取ることは難しい。しかも、新しいことであればあるほど、求められる知識やスキルは学校や教材のようなもので簡単に手に入るわけではなくなってくる。それでは、一体どうしたらよいのだろうか?
忙しいビジネスパーソンにはよくある状況だが、このような状況における理想の方法は、「つくることによって学ぶ」ということである。つまり、自身の創造の活動を通じて学ぶのである。「learning by doing(体験によって学ぶ、為すことによって学ぶ)」という言葉を聞いたことがあるかもしれないが、その「創造活動」への特化バージョン(learning by creating)だということができる。
これまで「学ぶ」ことはインプットであり、「つくる」ことはアウトプットだと捉えるのが一般的であった。つまり、「学ぶ」ことと「つくる」ことは別物だと認識されていたのである。しかし、「つくる」ことは「学ぶ」ことに直結し得る。この認識の転換がまず必要である。人は、つくることによって学ぶことができる。
次ページでまず、「つくることによって学ぶ」を実践している人々をみてみよう。
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井庭 崇(イバ タカシ)
慶應義塾大学総合政策学部准教授。博士(政策・メディア)。専門は、パターン・ラン ゲージ、システム理論、創造技法。マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院 Center for Collective Intelligence 客員研究員等を経て、現職。編著書・共著書に『複雑系入門――知のフ...
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