予期せぬ出来事からイノベーションを起こしたハイアール
予期せぬ出来事からイノベーションを起こした例として、中国の家電メーカーであるハイアールの洗濯機がある。ある日、四川省奥地の村に住んでいる農家の男性から同社のカスタマーサービスに電話があった。「洗濯機を使った後に、汚れが残る」という苦情だった。技術者が現場へ向かったところ、予期せぬ出来事が目の前で起こっていた。
男は、収穫した芋の泥を洗い落とすために洗濯機を使っていたのだ。トラブルの原因は誤った使用方法にあった。予期せぬ出来事を無視したい企業であれば、次のように対応するだろう。
「洗濯機は衣類を洗うためのものです。野菜を洗うためのものではありません」
もしかしたら、その場で“正しい洗濯機の使い方”を説明するかもしれない。
しかしハイアールは、自分たちが想定していた使い方ではなく、ユーザーの使い方こそが正しいと考えた。アジア太平洋部門社長であるフィリップ・カーマイケルによれば、このようなケースで同社はこう考えるそうだ。
「芋を洗おうとする人は、きっと彼以外にもたくさんいるはずだ。どうすれば、ユーザーの希望を叶えることができるだろうか?どうすれば、衣類と芋の両方を洗える機械を作れるだろうか?」
その後の調査によって、多くの農家は収穫した野菜を洗うために洗濯機を利用しているとわかった。そこで、野菜が洗える洗濯機を開発した。「予期せぬ出来事」を無視すること無く受け止め、次の行動を起こしたのだ。結果的に新しい洗濯機は大ヒットした。
このように、予期せぬ出来事をうまく活用することによって新しい価値を市場に提供することができる。『イノベーションと企業家精神』ではイノベーション実現に欠かせない行動原則がシンプルに提示されており、どうやって原則を組織の活動に組み込むかについても、体系的な説明がなされている。イノベーションに対する基本的な理解を獲得し、組織的なイノベーションを実現させるためにも、ぜひ目を通して欲しい。
- Backaler, Joel “Haier: A Chinese Company That Innovates”, Forbs. June 17, 2010.
- Madden, Normandy “Why It's Okay To Wash Potatoes in a Haier Washing Machine and Other Lessons From Philip Carmichael” Advertising Age, February 3, 2010.
- ナヴィ・ラジュ, ジャイディープ・プラブ, シモーヌ・アフージャ『イノベーションは新興国に学べ!』月沢李歌子訳, 日本経済新聞出版社, 2013.