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競争優位が「瞬時に崩れ去る」時代の新しい戦略書『競争優位の終焉』

(第22回)イノベーションに効く翻訳書13:『競争優位の終焉 市場の変化に合わせて、戦略を動かし続ける』

 本書は、従来正しいとされてきた戦略論では競争優位を長期的に維持することが難しくなる時代において、組織および個人がどう対応していくか?という難題に対して、著者の分析と実践を通して解決策の体系を紹介した一冊です。日本企業の多くが例外なく直面している課題にも拘わらず、こうした考え方はまだまだ十分理解されていないように感じます。本記事ではこの壮大なテーマに対する著者の提唱内容のエッセンスを俯瞰してみたいと思います。

イノベーションの指南書はなぜ日本で普及しないか?

競争優位の終焉
リタ・マグレイス (著)鬼澤忍
鬼澤忍(翻訳)/ 日本経済新聞出版社・刊

 著書であるリタ・マグレイスは、現在コロンビア大学ビジネススクールの教授であり、世界における経営思想家の影響力ランキングでもあるThinker50において、昨年も19位に位置する人物ですが、日本における認知度はあまり高くありません。しかし、不確実性の高い現在の企業の未来を考えるにあたり、C.クリステンセン教授同様に重要な示唆を与えてくれる経営学者の一人であることは間違いありません。

 日本でもイノベーションという言葉のみが流行する一方で、こうした先進的な指南書の認知度が上がらないのは、日本のビジネス現場においては未だ実績重視のハウツーが求められており、3冊の著書はどれも抽象的で難解に感じられることに原因があると考えられます。2000年:邦訳『アントレプレナーの戦略思考技術 不確実性をビジネスチャンスに変える』、2005年:邦訳『市場破壊戦略 競争ルールを激変させる40の戦術』、2009年:Discovery-Driven Growth: A Breakthrough Process to Reduce Risk and Seize Opportunity(未邦訳)の三冊は、どれもタイトルが長く、堅苦しいアカデミックなワードがさらにとっつきにくさを醸し出しているのかもしれません。ただこれらの3冊に比べ、本書は具体的な事例も含まれており、企業内でイノベーションに取り組んでいる方々にとっても身近に感じられる一冊になっています。

競争優位の終焉とは?

 本書は「競争優位の終焉」というタイトルにあるように、企業が競争優位を長期にわたって維持するのが難しくなる時代の到来とその対応策について書かれたものになります。従来の右肩上がりの成長市場において維持できていた競争力を「持続的な競争優位」、成熟市場において誰もが向き合う新たな時代を「一時的な競争優位」と定義し、この一時的な競争優位へ対応するために改革すべき重要な要素を下記の6つのシナリオで説明しています。1から6のシナリオには多少の連続性がありますが、個人的には読者が興味のあるどのシナリオから読み進めても良い内容になっています。

  • シナリオ1.継続的に変わり続ける
  • シナリオ2.衰退の前兆をつかみ、うまく撤退する
  • シナリオ3.資源配分を見直し、効率性を高める
  • シナリオ4.イノベーションに習熟する
  • シナリオ5.リーダーシップとマインドセットを変える
  • シナリオ6.あなた個人への影響を考える

 これらはどれも経営上の課題であるため、本書の内容の殆どは経営者視座で書かれています。もしあなたが現場視座でのイノベーションを検討している方ならば、後半のシナリオ、特に4~6が興味を惹く内容になるでしょう。そのなかでも、6の新しい時代における個人のキャリアデザインに対する見解をこの手の戦略指南書に加えた点に著者のメッセージとしての思い入れを感じます。本記事では、各シナリオのエッセンスを抽出し、私なりの解釈も加えた本書の中心的なメッセージを紹介したいと思います。

次のページ
継続的成長を続ける“例外的成長企業”が実践する「一時的競争優位」とは?

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この記事の著者

津嶋 辰郎(ツシマ タツロウ)

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https://enterprisezine.jp/article/detail/5999 2014/07/23 08:00

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