積極的に外に出ることで自分が磨かれる
吉田:今回の「システム管理者のための夏期講習」のテーマは「すべての企業がITを武器にする時代の『エンジニア魂』を考える」。参加者一人ひとりが自身のエンジニア魂について考えてもらう機会にできればと思っています。そこでどういうステップを踏めば、吉岡さん、小林さんのようになれるのか。今回のパネルディスカッションでは、まずそういうアプローチから始めてみようと思っています。
吉岡:私が楽天に入社したのは2009年。前職はミラクル・リナックスで、Linuxやオープンソースソフトウェア(OSS)を日本に根付かせるエバンジェリスト的な活動をしていました。その前は日本オラクルといきあたりばったりな人生を送っています(笑)。
吉田:吉岡さんはコミュニティ活動にも積極的に参加されていますよね。
吉岡:そうですね。OSSはコミュニティ活動が主体ですからね。
小林:私は吉岡さんと違い、東京海上日動という会社でずっと過ごしてきました。しかし転職をしなくても、いろいろなことができるということを言いたいですね。私は放任主義の部署に配属されたことで、入社時からどんどん自らが動いて仕事をする環境にあったんです。新しい情報を仕入れるには、外と接触しないとどうにもなりません。実は東京海上は積極的に外に出ようという文化があったんです。私はそれに乗っかりながら、いろいろなところとコラボレーションして情報を仕入れるというスタンスで仕事してきました。
吉岡:質問ですが、会社の文化として外に出ていくことが奨励されているのでしょうか。そういう環境でも外に出ない人もいます。小林さんが外に出て行くきっかけは何だったのですか。
小林:入社10年目にJUAS(日本情報システム・ユーザー協会)が開催した海外ワークショップに参加したことです。そこで事務局とも知り合いになり、仲間が増えたんです。オラクルをくどいて、Oracle Application Serverの日本導入を進めたのは私なんですよ。うちがファーストユーザーになりますからと。
吉岡:かなりのチャレンジャーですね(笑)。
小林:でもそうした先進的な取り組みをすることで講演を依頼されたり、雑誌に取り上げられたりして、名前が売れていったんです。するとどんどん声がかかってくる。だから部下も外にどんどん出すようにしています。講演の依頼が来たら、決して断らない。ここはポイントです。
吉岡:業界団体をきっかけに積極的に外に出たことで今の立場、ネットワークを築いてこられたんですね。
小林:だから転職しなくても日本中に知り合いがいます。そういう風土が拡がるといいですね。
外だからより求められる「プロフェッショナル」の意識
吉田:話を聞いていると、外に出るパターンは大きく2つに分かれます。会社を背負って出て行く近場の外と、会社が終わった後に個人で出て行く外。吉岡さんは遠い外でお会いしていて、小林さんは近場の外に出て行っています。
吉岡:どちらの外でも、大切なのはプロフェッショナルの意識があることではないでしょうか。小林さんは所属している企業を背負ってというより、小林さん自身が進みたい未来に対してすごく誠実に活動されているんだと思います。業界団体での問題解決のための議論や活動はまさにコミュニティ活動。その中でリスペクトされるのは、仕事に対してすごく誠実に向き合っているから。OSSは最初から組織がないから、所属組織よりその技術に対する誠実さで、その人の信頼度が積み重なっていきますから。
吉田:吉岡さん、小林さんに共通しているのは個の中に元々外に出るモチベーションがあり、それを燃料にさらに外に出て行っているように思われます。一方で自ら外に出るという勇気を持てない人もいます。例えば外での活動が給与に反映されるということがあると、出て行くモチベーションにもなるのではと思うのですが、外部での活動を評価する仕組みにはなっているのでしょうか。
吉岡:外部の活動が給与に反映されることはないですね。ただ社外に出て発表する、社内勉強会を開催する、そういった活動が社内のコミュニティで話題となり、上長の耳に入っていく。そういうところですね。社内外での活動の積み重ねが一人一人の価値を高めるのはもちろん、会社としてのブランドも高めていくからです。
小林:ブランディングは大事ですね。当社では社員の意識調査をしていますが、自分の会社に誇りを持てていない人も多いんです。だからどんどん露出することを心がけています。紙面やWebサイトに自社のことが掲載されるようになればなるほど、社員が誇りを持って働けるようになると思うんです。
現状の仕事を守っていくだけでは居場所がなくなる
吉田:とはいえ、なかなか外に出て行かない方もいると思います。そういう方にはなんと声かけるといいのでしょう。
小林:刺激を与えるしかないと思います。
吉田:意図的に刺激を与えることはやっていらっしゃるのでしょうか?
小林:海外出張やオフショア先に駐在させたりしています。特にオフショア先に出すと人が変わりますよ。自分が動かないと、現地の人たちは動いてくれませんから。少なくとも危機感を持つことは必要ですね。システムを守っていく仕事はどんどん自動化されるので、なくなっていきますから。気づくと居場所がないなんてことにならないためにも、自分の立ち位置をシフトしていかないとまずいですよね。
吉岡:危機感を持てるかは個人の成長にとって重要なポイントですね。当社では以前より、英語ができる、できないにかかわらず、エンジニアを海外のカンファレンスに強制的に参加させてきました。なぜかというと、英語をやらないとやばいということに気づくからです。社内公用語を英語にしたことで、海外に行くことを嫌がる社員は減りました。そこで今年は発表者としても海外のカンファレンスに送り込んでいます。エンジニア一人ひとりにサバイブ力が身についてきた気がします。
小林:サバイブ力。確かにサッカー日本代表の本田選手の言葉ではないですが、エンジニアも個の時代になってきたと思います。エンジニアはどんどん外に出て個の力を磨き、たくましくサバイブしていってほしいと思います。
吉岡:ITほど面白い世界はないですからね。例えば20年前を振り返ると、今の状況はまるで魔法を見ているような変化です。10年後、20年後も、ITがベースになっているはず。その現場にいられるのです。飽きないですよ。あとはいかに自分に力をつけるかです。
吉田:本日は面白いお話をありがとうございました。イベント当日のパネルディスカッションもますます盛り上がりそうですね。みなさん、ぜひお楽しみに。