
ヤマハ発動機は、グローバルに事業を展開する国内製造業としてはかなり早くから、セキュリティやITガバナンスの強化に積極的に取り組んできた。しかし2013年にあらためて、インシデント対応組織である組織内CSIRTを立ち上げ、翌年には日本シーサート協議会に参画した。こうした動きの背景にはどのような意図があり、そして結果としてどのような効果を得たのか。同社CSIRTの創設メンバーに話を聞いた。
Webサイトのガバナンス見直しを契機に、組織内CSIRTを設立
バイクやスクーターなど、モーターサイクル(自動二輪車)製品の世界的なトップメーカーとしておなじみのヤマハ発動機株式会社(以下、ヤマハ発動機)。ほかにも自動車メーカーのエンジンを供給したり、あるいは船舶やスノーモービルを製造・販売したりと、幅広い事業を展開している。また同社は世界中でその名が知られている日本を代表するグローバル企業でもある。事実、ヤマハ発動機の売上げの約9割は、海外市場におけるものだという。

世界的なトップメーカーとして知られるヤマハ発動機株式会社
そんな同社は2013年、組織内CSIRTである「YMC-CSIRT(Yamaha Motor Corporation Computer Security Incident Response Team)」を立ち上げ、翌2014年には日本シーサート協議会への加盟を果たしている。こう書くと、まるでここ数年の間で急速にセキュリティ対策を強化してきたようにも思えるかもしれないが、事実はまったく逆で、むしろ国内製造業としては相当早くからセキュリティ対策やITガバナンス体制の構築に力を入れてきた。ヤマハ発動機 企画・財務本部 プロセス・IT部 IT技術戦略グループ 主務 原子拓氏によれば、その歴史は1990年代までさかのぼることができるという。

ヤマハ発動機 企画・財務本部 プロセス・IT部
IT技術戦略グループ 主務 原子拓氏
「1997年ごろにWebサイトが改ざんされたり、あるいは2001年のCode Red流行でネットワークがダウンしたりと、これまでさまざまなインシデントの被害を受けてきた教訓を生かし、考え得るさまざまなインシデントに即応できる体制を10年以上前から社内で整備してきました。特にWebサイトのセキュリティに関しては、現在でも強化の取り組みを続けています」
ヤマハ発動機は世界中の地域ごとに拠点や子会社を持ち、それぞれで独立してWebサイトを運営している。例えば南国では船舶関連の商品をサイトの全面に押し出す一方、雪の多い地域ではスノーモービルを訴求するなど、世界の各国・各地域ごとに商品の売れ筋は異なる。そのため、サイトの企画やデザインも各国・各地域ごとに独立して行っているのだ。
しかしこのことが、グローバルでのITガバナンスを困難なものにしているという。ヤマハモーターソリューション株式会社 ITサービス事業部 ITサービス企画部 部長 浅野哲孝氏は、次のように述べる。
「国内外のグループ企業がそれぞれ運営するWebサイトが全部で約350あり、一般消費者向けのコーポレートサイトだけでも約130のサイトがあります。これらの中にはお客さまの個人情報を扱っているものもあり、WAFなどを使って攻撃からしっかり守ってやる必要があります。しかしかつては、すべてのサイトの運用状況を本社できちんと把握できているわけではありませんでした。そこで、これらWebサイトに対するガバナンスを強化するとともに、万が一のインシデント発生に備えた早期警戒態勢を強化するために、外部の組織や他企業との情報交換の窓口としてYMC-CSIRTを組織し、日本シーサート協議会にも加盟することになったのです」
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吉村 哲樹(ヨシムラ テツキ)
早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。その後、外資系ソフトウェアベンダーでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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