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これまでIT化されてきた10倍以上の部分にAIが使われる――Laboro.AI CEO 椎橋徹夫氏

2019/01/24 06:00

 「AIブーム」とも言われ、急速にAIの導入機運が高まる中で、「プロジェクトが上手く進まない」「PoC以降のロードマップが描けない」といった悩み事もまた具体的になってきているという。実際どのようなことが課題となるのか、またそれを回避するにはどうしたらいいのか。編集部主催のdata tech 2018に登壇した株式会社Laboro.AI代表取締役 CEO 椎橋徹夫氏が、AI/機械学習の導入に不可欠なソリューションデザインとおさえておくべき考え方について解説した。

AI導入のソリューションデザインとおさえておくべき4つのポイント

 「AIを導入することで大きなビジネス価値を得られるのは、バックオフィスよりむしろ各企業のコアなビジネスプロセスだ」

株式会社Laboro.AI代表取締役 CEO 椎橋徹夫氏

 そう語るのは株式会社Laboro.AI代表取締役 CEO 椎橋徹夫氏だ。同社は機械学習やディープラーニングなど、研究の世界で生み出される新たな知見を産業界に応用し、イノベーションや技術革新を起こすべく取り組んできた。300社以上のAI導入の相談にのってきた経験から、成功させるための「ソリューションデザイン」の重要性を実感し、4つのポイントについて考える必要があることに気づいたという。

 その1つ目が「AI技術の本質」だ。AIという言葉自体がバズワード的に普及した結果、これまでの技術と何が違うのか、何を実現してくれるのか、本質を捉えきれなくてきている。そこを捉え直すことが重要だという。そして2つ目が「産業インパクト」。自身のビジネスや産業について、AI技術がもたらす変化を前提とすると何がどのように変わり、その中でどうすれば価値を最大化できるのかをしっかりと見定めることだ。

 3つめは「プロジェクトビジョン」。AI導入のプロジェクトというと短期的な成果を求めがちだが、中長期的に何をどうしていきたいのか、ビジョンを持つことが重要だという。そして、4つめに「ソリューションの開発」として、これまでのITソリューションの開発と異なる部分が多いことをあげた。

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人の活動の9割を占める直感や潜在意識を置き換える

 そもそもAIとは、全く新しい種類のソフトウェアといえる。ソフトウェアは入力データに処理が行われてアウトプットされるという仕組みであり、従来のソフトウェアは処理プログラムは人の手で作成されてきた。しかし、AIの場合、処理プログラムの一部または全体を人の手ではなく機械自ら作成する。つまり、従来のソフトウェアが置き換えてきた対象は、ルール化ができる「ロジカルで意識的」な部分。そして、AIによって置き換えられるのは、人が「直感的、無意識に」行なっている部分というわけだ。

 直感的・無意識の部分を置き換えるということは、一体どのくらいのインパクトを持つのか。人間の活動を氷山で考えれば、これまでIT化が実現した領域は、表層に出ているわずか5〜10%程度、自覚的な顕在意識の部分だ。一方、今後AI/機械学習が置き換えるのは、自覚のない直感や無意識で行なわれている部分。9割以上も残された部分だ。椎橋氏は「これまでIT化されてきた10倍以上の部分にAIが使われ、世界が大きく変わる可能性がある」とインパクトの大きさについて強調した。

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 それでは、「直感的で無意識の部分」の機械化によって、産業的にはどのような変化や可能性があるのだろうか。椎橋氏はまず、大きく2つ、「認識」と「予測」において置き換えが起きると予測する。

「認識・予測」のAIへの置き換えでビジネスが大きく変わる

 まず「認識」の場合をみてみよう。たとえば、犬と猫を見分けて認識するのは、誰もが直感的に行なうことで、ルール化は難しく、従来のシステムでは置き換えが難しかった。また、ファッションの領域で「この服と似ているスタイル」を検索しようと思った時に、現在は形や色などのキーワードで探すのが一般的だが、優れたスタイリストならば、雰囲気が似ている服を感覚的に見つけ出す。

 こうした「認識」は、まさに直感的な処理の最たるものであり、AI/機械学習によって置き換えができる可能性がある。犬と猫の見分けも、スタイリストのように雰囲気の似た服を直感的に選び出すこともできるようになる。他にも、会社の与信は大量の資料や情報から人間が行なってきたが、そうした資料の読み込みと判断も置き換えられるかもしれない。また、画像の他にも手書き文字の認識や音声・音響の認識などにおいても同様に置き換えられるものが出てくるだろう。

 そして2つ目の「予測」についてはどうだろう。ビジネスの世界では常に先読みをして行動することが求められており、これまで一部の人間の予測判断に基づいて行なわれてきた。従来は、この部分の機械化は難しいとされてきたが、いまや置き換えや補完ができる可能性が高い。たとえば「異常の検知」が話題になっているが、異常を起こす前のデータを集めて関連性を見極めれば、「異常の予測」も可能になる。また、ECサイトでもデータから次に購入される予測が立てられれば、リコメンドやマーケテイングなどの行動も変わってくるだろう。

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 他にも人材紹介事業などでのマッチングについても、AI/機械学習による「成約や活躍の予測」がかなえば、定着などを勘案しながらより良い成果をあげられるよう対応が変わるだろう。さらに金融の領域では、倒産などのリスク予測がAIによるものとなる可能性がある。

 椎橋氏は「今後、これまで人間が行なってきた部分がAI/機械学習に置き換えられれば、おそらく仕事の仕方も大きく変わってくるはず」と語る。

 これまでは、リアルの世界でモノの流通や加工で産業革命が起き、ITが登場してデジタルの世界でも起きた。AIはその間をつなぐ部分を担い、リアルな世界を観てデジタルに落とす『認識・予測』から、今度は何かを生み出したり、リアルのロボットを制御するなどデジタルからリアルへの働きかけも生じていくと考えられる。つまり、AIの真価は、『一部の業務の部分的な効率化』ではなく、『コアな業務が大きく変わること』にあるのではないかと思われる。

 こうした認識・予測から始まっていくAI/機械学習による第4次産業革命が、どのように自社のコアビジネスに影響するのか。それを考えるところが起点となるというわけだ。

多種多様な企業でAI/機械学習導入の取り組みが進む

 続いて椎橋氏は、自社のコアビジネスにAI/機械学習を導入し、大きなビジネス価値を与えた例、構造を変えてきた例について紹介した。

 1つめに紹介されたのは、あるゼネコンの施工管理業務へのAI/機械学習の導入事例だ。施工管理業務はベテランの属人的な技術に負うものであることが多い。それをすべて置き換えようというもので、長期的な取り組みになっているという。さらにゼネコンにおいては、設計業務の領域へのAI/機械学習の導入事例も進んでおり、それによって最適化・省力化・短縮化を図ろうとしているという。

 2つめは、介護サービス企業でのケアプランの作成における導入事例。慢性的に人手不足という状況下で、プランニングの質が悪いとオペレーションも悪く現場が疲弊してしまう。そこで被介護者に対してヒアリングとアセスメントを行ない、既存の優れたケアプランをモデルとしつつ自然言語の認識技術を用いて自動的にプランを作成している。

 さらに大手メディアの非財務情報(文書情報)に基づく企業評価の自動化システム、大手人材紹介/人材派遣に対する、成約確率の予測に基づく求職者と求人案件のマッチングシステムなども紹介された。

 また大手製薬で、レセプトデータを自然言語処理技術を活用して自動処理することによる医療管理改革や、機器メーカーにおいて映像によるユーザー状態認識機能を持つ次世代型キオスク端末の開発に携わるなど、多くの事例が紹介された。

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 椎橋氏は「いずれもそれぞれのコアプロセスに直結した部分であり、従来は熟練者の担っていた部分をAI/機械学習で補完し、一部を置き換えることを意図している。そして中長期的なプロジェクトビジョンを持って取り組むことで、未来における大きなビジネス価値を創出することができる」と語った。

既存のITシステムと大きく異なるAI/機械学習のソリューション開発

 冒頭で紹介したように、これまでのソフトウェア開発の仕方と、AI/機械学習の開発では、まったく異なることも多い。既存のソフトウェアの場合、処理ロジックは人がプログラムとして書くが、AI/機械学習は処理ロジックの一部または全体をデータから機械が見出す。そのためデータの質や量が重要になる。

 そこでポイントは、(1)企業の中に溜まっているデータがあるかどうかを確認すること、そして(2)入出力をきちんと定義することも大切だ。そして、(3)手法としての学習アルゴリズムについては、要件にかなった手法をきちんと選ぶこと。そして(4)「精度指標」の見定め方も重要だ。というのも、入出力で関係が明白な既存システムとは異なり、AI/機械学習で分析しても必ずしも高い精度で結果が出るとは限らない。どの際に、どのような視点で精度を評価すれば、意味のある評価になるのか、あらかじめ協議しておくことが必要というわけだ。そして、(5)学習方法についても、データをどのような順番で学習させるか、どのような手法で学習データをつくるか、学習学習する時の手順などで精度が変わってくるという。

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 最後に椎橋氏は「今日紹介させていただいたような内容をおさえながら、様々な業界でAI/機械学習の活用が進み、様々な産業プロセスやプロダクトにおけるビジネス価値が高まることを望んでいる。我々もそうしたことを、様々なところでサポートさせていただく存在になれたら幸い」と語り、セッションの結びとした。

【お問い合わせ】
株式会社Laboro.AI

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    フリーランスのエディター&ライター。もともとは絵本の編集からスタートし、雑誌、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ビジネスやIT系を中心に、カタログやWebサイト、広報誌まで、メディアを問わずコンテンツディレクションを行っている。

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