国内企業のDXの目的は、業務の卓越性などより現実的なものへ
IDCでは、2019年7月に、DXに取り組んでいる企業150社を対象としたDXの動向調査を実施した。これは、2018年に引き続き行われたものであり、国内企業におけるDXとビジネスとの連携、推進上の課題、DX実現のIT基盤などを幅広く聞いたものだという。
このうち、国内企業のDX戦略については、ビジネスの戦略と強く結びついた長期的なものであるとした回答が43.4%と半分を下回り、DX戦略とビジネス戦略の間に乖離がある企業がまだ多いという結果となった。これは、2018年の同様の質問結果とほぼ同等の結果。DXとは、ビジネスの変革である以上、両者のより強い連携が必要であるとIDCではみている。
一方、DX推進の際の優先事項/目的を聞いた結果では、製品/サービス開発業務の卓越性、人材の卓越性などが上位に挙がった。2018年の調査では、データの資本化/収益化が1位だったことと比べると、国内企業のDXはより現実的な、目の前にある課題解決に向けた目標に移行しているものとみられる。
全社最適かつ長期的な取り組みとしてのDXを目指すべき
では、DXによって国内企業は業績上の恩恵を受けているのか。DXの売上/利益に対するインパクトを聞いた質問では、「現時点ではDXによる売上/利益増加の効果は見えていない」とした回答が最も多く、37.3%に上った。これに「財務的なインパクトを測定していない」とした割合を合わせると、実に半数の企業でDXが実際のビジネスへの効果を見ることができていないということになる。
さらにDXの課題として、DXのプロジェクトが社内でバラバラに行われていたり、複数のDXシステム間の連携がなかったりといったことが挙げられており、上述の「DX戦略とビジネス戦略との乖離」とも合わせて考えると、DXが全体最適の下行われておらず、結果として財務上の結果に結びついていないという国内企業の姿が想像される。
今回の調査の質問には含まれていないが、これらの結果からはDXシステムと既存の情報システムとの連携が弱い企業も多いと推察され、経済産業省が「DXレポート」の中で警鐘を鳴らした「2025年の崖」の危険性が多くの企業で存在しているものとIDCではみている。
部分最適のDXがもたらす「新たなサイロ」や、DXがもたらす財務上のインパクトが不十分であることは、国内企業のDXを停滞させることにつながる可能性を持っている。
IDC Japan リサーチバイスプレジデントの寄藤幸治氏は、「国内企業は、自社の5年後、10年後の顧客、競争相手、従業員、ビジネスモデルを想定し、それに向けたビジネス戦略、デジタル戦略を策定する必要がある。その際に必要となるパートナー選定に際しても、テクノロジー提供だけではなく戦略策定、人材育成、アジャイルなプロジェクトマネジメントなど自社変革を様々な面で支えてくれる企業を中心に考えるべきである」と述べている。
今回の発表は、IDCが発行した「2019年 国内企業のデジタルトランスフォーメーション動向調査」にその詳細が報告されている。