富士通と中国電力ネットワークは、次世代電力ネットワーク技術として期待されているダイナミックレーティングの実現、および送電設備の保全業務高度化におけるドローンの活用に向けて、送電設備を活用して取得・変換した風況などの環境データの実用性について、2021年9月から1年間の実証試験を実施した。
同実証試験では、送電線の光ファイバー複合架空地線(以下、OPGW)に、光ファイバーセンシング技術を用いて取得したOPGWの振動データをデータ変換技術で変換し、送電線近傍の環境データを推定。現地の実測データと比較検証した結果、概ね一致していることが確認できたという。
これにより、広範囲に設置されている送電線近傍の環境データ(風況)を効率的かつ正確に取得できるため、ダイナミックレーティングやドローンを活用した巡視点検への適用拡大が可能になり、再生可能エネルギーの導入拡大や送電設備の保全業務の高度化が実現できるとしている。
実証試験の内容は以下のとおり。
概要
中国電力ネットワークの変電所などにおいて、OPGW振動測定用の光ファイバーの測定装置や計算用コンピューターなど機器一式を設置。ミリ秒単位の振動データを長さ70キロメートルに渡り、数メートル間隔で取得する。その振動データをもとに、富士通のデータ変換技術を活用して環境データ(風況)や送電線温度を推定し、これらのデータをドローンの運航支援やダイナミックレーティングに活用するための検証を行い、有効性を確認したという(図1)。
期間
2021年9月1日~2022年9月30日まで
実証箇所
中国電力ネットワークが所有する中国地方(島根県、広島県、山口県)の送電線 計3線路
内容と結果
(1)ドローン飛行可否の判断に向けたデータ変換技術の検証
同実証試験において、OPGWの振動データを変換して取得した環境データ(風況)と現地に設置した風速計の実測データとの比較を行ったところ、概ね一致していることが確認できたという(図2)。
これにより、同実証試験で活用した技術が、起伏によって風況が複雑に変化する山間部においても、正確かつ効率的にデータを取得でき、ドローンの飛行可否の判断や風況を考慮した飛行ルートの選定に適用可能であることが検証できたとしている。
(2)送電容量の拡大に向けたダイナミックレーティングへの適用検証
送電線は、送電電圧や電線の太さに加え、気象条件を決定して運用している。今後、再生可能エネルギーの導入拡大を実現するためには、刻々と変化する気象条件から送電線の温度を正確に推定し、送電容量を弾力的に運用するダイナミックレーティングの活用が有効だという。
同実証試験では、送電線の温度を推定するため、(1)で推定した環境データ(風況)と鉄塔に設置した各種センサーで実測した日射量および外気温、実際に送電線に流れる電流値をパラメーターとして、温度データに変換し、送電線の温度を推定。また、赤外線サーモグラフィカメラを設置して送電線の温度を実測したところ、精度が概ね一致していることが確認できたとしている(図3)。
同技術を活用することで、送電線の温度変化に最も寄与する送電線近傍の環境データ(風況)を全域に渡ってリアルタイムで把握できるようになり、これまで固定値で運用していた送電容量を弾力的に運用することによって送電容量の増加が見込めるため、再生可能エネルギーの導入拡大に寄与するという。
(3)業務実装に向けたプロトタイプシステムの作成と運用検証
富士通は、同実証試験によって得られた環境データ(風況)や推定データを、送電設備に合わせて地図上に可視化する送電網高度運用支援のプロトタイプシステムを作成。中国電力ネットワークは、同システムでの広範囲に渡るデータの把握や実運用を見据えた操作感、利便性について検証を行った(図4)。
同システムを活用することで、可視化されたデータに基づいたダイナミックレーティングの実施やドローン飛行の可否判断による業務の高度化が図れるという。
富士通と中国電力ネットワークは今後、環境データ(風況)や送電線温度のデータが活用できる送電網高度運用支援システムの構築に向けた開発を進めるとともに、保全業務の改革やサステナブルなエネルギー供給などの社会課題解決を目指すとしている。
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