今回の調査の結果、回答者の70.7%が「デジタル・ビジネスへの準備を進めている」ことが明らかになった。ただし、全社的な活動となっている割合は、全体の2割にとどまり、IT部門またはビジネス部門が単独で準備しているケースが、それぞれ16.5%、11.1%という結果になった。
「Gartner Symposium/ITxpo 2015」に先立ち、2015年7~8月にガートナー ジャパンが国内の企業を対象に実施した今回の調査は、ユーザー企業、ベンダー企業の双方を含む日本企業がデジタル・ビジネスへの準備状況やIT部門の将来の役割をどう捉えているかについて尋ねたもの。
有効回答者数334人のうち、多くはIT系の業務に携わる層であり、ユーザー企業とベンダー企業の割合はおおむね7対3でした。また、17%は経営層だった。
ガートナーのリサーチ バイス プレジデントの鈴木雅喜氏は、今回の調査結果に関し、次のように述べている。
「調査結果から明らかなように、デジタル・ビジネスのトレンドが日本でも顕在化しています。これは、一部の企業あるいは一部の部門だけが考えるテーマではありません。いかなる企業、いかなる部門も、このトレンドから逃れられなくなっています。時として『シャドーIT』と呼ばれる、ビジネス部門を主体としたテクノロジ活用の動きが広がり、企業にとって大きな機会を生み出そうとしています。」
「一方、多くのIT部門がこれまで担ってきたのは、主にIT部門内で構築したシステムであり、現状のままでは、IT部門はデジタル・ビジネスを推進する大きな機会を失う可能性があります。また、ビジネス部門が進めるテクノロジ活用が、管理されない状態で企業内に広がっていけば、バラバラになったサイロの集合体となり、全体として非効率性をもたらすばかりか、セキュリティや信頼性に関するリスクも増大しかねません」
この点に関連し、IT部門の5年後の役割について質問したところ、「従来のITの維持」という回答は全体の9.6%にとどまった。一方、回答者の80.8%が「少なくとも、全社に向けたテクノロジ共通基盤を担うとともにテクノロジ活用、クラウド、セキュリティに関するガバナンスの役割を担うべき」と考えていることが明らかになった。
この場合、IT部門の管理下ではあるが、ビジネス部門が単独でテクノロジを応用したビジネスの革新を進められることになる。また、回答者の51.8%が、「IT部門はビジネス部門が進めるテクノロジ活用に深く関与すべき」と回答している。
この場合は、デジタル・ビジネスの実現に向けてIT部門とビジネス部門が協力してテクノロジ活用を進めることになる。
前述の鈴木氏は、「多くの回答者が、『IT部門は変わっていくべき』と考えていることが、今回の調査から明らかになりました。問題は、本当に変わっていけるかどうかです。これは、これまでの活動の延長線上で進められる話ではないとみています。まずは、デジタル・ビジネスを企業戦略と位置付け、また変化を阻む要素を企業の経営層自らが理解し、1つ1つ対処していくことが重要です」と述べている。
今回の調査では、IT部門がデジタル・ビジネスへの対応を進めていくために必要なものについても尋ねている。最も多く選ばれたのは、「人材育成/登用」「テクノロジ活用の知識/ノウハウの蓄積」「テクノロジ活用に向けた経営戦略の立案」の3つだった。
この結果には、IT部門がテクノロジをさらに理解し、活用できる力をつけ、それを経営にもつなげていこうとする方向が表れているが、そのためには人材育成/登用が必要不可欠になる。
また、ベンダーに期待することとしては、「複数のテクノロジ/クラウドのビジネスへのインテグレーション」「テクノロジ/クラウド活用ができるアーキテクチャ整備に向けた支援」「IT部門に向けたデジタル・ビジネス拡大への包括的支援」といった項目が上位に並んでおり、回答者がデジタル・ビジネスを進めていく上で、その核心ともなるべき点について、ベンダーの力も求めていることが明らかとなった。
ガートナーでは、「デジタル・テクノロジ」と「デジタル・ビジネス」について以下のように定義している。 「デジタル・テクノロジ」とは、モバイル、クラウド、インフォメーションとビッグ・データ、ソーシャルの4つの「力の結節」(Nexus of Forces)、さらにモノのインターネット (IoT)、スマート・マシンなど新しく革新的なものを中心とした幅広いテクノロジ群を指している。
一方、「デジタル・ビジネス」は「デジタルの世界と物理的な世界の境界を曖昧にすることによって、新しいビジネス・デザインを創造すること」と定義している。これは、デジタル・テクノロジを用いてビジネスの仕組みを変革することを意味している。
なお、10月28~30日に東京・台場で開催する「Gartner Symposium/ITxpo 2015」において、コンファレンス・チェアを務める前述の鈴木氏をはじめ、ガートナーの世界的なトップ・アナリスト陣、日本市場を熟知した日本のアナリスト陣が、デジタル・ビジネスとデジタル・テクノロジ、さらにIT全般に関する従来の観点も含めて、幅広い提言を行うという。