新時代のコンタクトセンターに必要な3つの柱
道下:今回、私たちWalkMeは出水さんがパートナーを務めるデジタルシフトウェーブ、LINE、salesforce.comの4社で「新時代のコンタクトセンターのあり方と始め方」に関する共同提言を行うことを計画しています。
4社が接点を持つことになったきっかけは、出水さんがスカパー・カスタマーリレーションズ(SPCC)の社長に就いていた2016年にスカパー!のスマートコンタクトセンターの立ち上げをサポートしたことにあります。その後、出水さんはデジタルシフトウェーブに移られましたので、より自由で中立的な立場から日本企業のコンタクトセンターをより良いものにするためのサポートができると考え、今回の提言を行うに至りました。
「新時代のコンタクトセンター」が求められる背景には、やはりお客様との対面接触を避ける意識の高まりがあります。企業にとっては、コンタクトセンターは重要なチャネルであり、いわゆる「3密(密閉、密集、密接)」を避けた事業継続計画が必要です。
例えば、ある大手小売業では、店舗への来客集中を避けるためにデジタルシフトを進めましたが、コンタクトセンターがパンクする事態に陥りました。ECサイトでのマスクと消毒液の抽選販売に応募が殺到し、メールでの問い合わせや当選者への対応を処理できなくなったのです。
また、期間限定で送料無料にしたところ、受注が急増。新規会員の登録処理も増え、担当者の処理の限界を超えてしまいました。その経験からの学びは2つあります。一つは人手をかけなくても良いプロセスは自動化するべきだということ。もう一つは人手が必要なプロセスの可用性や継続性を担保するべきだということです。
以前の仕事でご一緒した出水さんに相談して、新時代のコンタクトセンターとは何かを議論した結果、アフターコロナ時代のコンタクトセンターのあり方として、「インハウスとアウトソースのハイブリッド」の運営、「在宅も視野に入れた分散型」の職場環境、「デジタルを活用して人の価値を高める」ことの3つが柱になると分かってきました(図1)。
コンタクトセンターの変遷
道下:出水さんには「新時代のコンタクトセンターのあり方」として掲げる3つの柱の具体的な中身について伺いたいと考えています。その前に、日本のコンタクトセンターの歴史的な変遷と、今の時代の位置付けについて確認させてください。
出水:コンタクトセンターは1980年代に生まれ、発展してきました。最初は電話でお客様の問いに答えるコミュニケーションでしたが、1995年からのPCの普及に伴い、お客様自身がある程度の解決の手段を持つように変わっていきます。最も影響が大きいのは、2010年から始まるスマートフォンの普及で、お客様がどのチャネルを選択しても一貫性のあるコミュニケーションが求められるようになりました。とは言え、当時の写真3つを並べても風景自体は変わらない。昔も今も変わらない3密の職場です(図2)。
こうなった背景を遡ると、1990年代に地方自治体が助成金を出してコンタクトセンターを誘致したことがあります。市場規模が拡大したのは大規模なアウトソーサーがいたからです。逆に企業がアウトソーサーに大きく依存していた分、自分たちのデジタル化は遅れてしまいました。さらに、少子高齢化で労働環境は1990年代とは大きく変化しています。労働人口が減少する中、コロナ以前からコンタクトセンターは3K職場として不人気で、3密以前になり手がいないという問題を抱えていました。
そして、2020年のコンタクトセンターが抱える課題は、「人手不足」「コンタクトポイントの増加」「システムの老朽化」「オペレーションの複雑化」「デジタルシフト」「CX重視」と多岐にわたります。先ほどの道下さんが挙げた大手小売業のように、人手が足りないのに対面接客とECサイトの両方のお客様から問い合わせが来るので、オペレーションが複雑化しています。
一方で経営からの要求はデジタルシフトかつCX重視です。これまではコストを抑えるために業務の見直しばかりやってきたのに、2020年の初めには広い意味での生産性向上が求められるようになっていました。その後は非対面のお客様対応の重要性は増すばかりですが、3密は避けなくてはならない。コンタクトセンターの責任者はその板挟みになってしまったのです。