『ここはウォーターフォール市、アジャイル町 ストーリーで学ぶアジャイルな組織のつくり方』(沢渡 あまね、新井 剛 著)はストーリー(物語)形式のページと、具体的なノウハウを解説したページに分かれています。現場のリアルなストーリーでイメージをつかみながら、アジャイルに挑戦できる内容です。
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本書のストーリーのプロローグはこちらでお読みいただけます。ここからは、本書の解説部分となります。
第1章 無力感
レガシーなウォーターフォール型の現場にはアジャイルを適用できない?
ここからは解説編です。物語で遭遇した問題に関して整理しながら、その対策を詳しく説明していきます。
さて、真希乃が出会ったアジャイルとは、いったいどんな方法論なのでしょうか? また、真希乃の所属する会社のように縦割りで役割が固定された組織や、レガシーな開発スタイルの現場には、アジャイルは向かないのでしょうか?
そう思ってしまう背景には、アジャイルは Web 業界やスマホアプリなどの新規プロジェクトにしか向かないという思い込み、または、アジャイルは単なる開発方法論だという認識があるのかもしれません。
まずは、アジャイルとはどんなものなのかを知ることから始めましょう。そうすれば、ウォーターフォールとアジャイルが単なる二項対立ではないことがわかるでしょう。そして、ウォーターフォールとアジャイルは共存可能で、いろいろな業務にも適用可能だと認識が少しずつ変わっていくことでしょう。

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現場での実践ポイント
ここからは、以下の 3 つに焦点を当てて、現場での実践ポイントを解説します。

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アジャイルを知る
アジャイルの生誕
さっそくアジャイルに関して説明していきましょう。アジャイルとは、2001年に17人のソフトウェア開発の賢人たちによって生み出された概念です。ユタ州のスノーバードというスキーリゾートにおいて、3日間の会合が行われました。その中で、1990年代にそれぞれがうまくいった開発手法を持ち寄り、それぞれが提唱していた開発方法論の統合を試みたのです。
それらの開発方法論は、週単位で継続的に開発プロセスを反復することや、その短い期間でリリース可能なソフトウェアを開発すること、動くソフトウェアをプロジェクト進行の尺度にすること、直接顔を合わせてコミュニケーションを取ること、共同作業を重要視すること、自分たちでふりかえりながらプロジェクトの優先順位を見直したりすることがところどころ似ていました。
それらの統合を試み、数カ月の協働作業の結果生まれたのが、下記のアジャイルソフトウェア開発宣言です。

出典:https://agilemanifesto.org/iso/ja/manifesto.html
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アジャイルの価値
この宣言の中では「個人と対話」をし、「動くソフトウェア」を基準にし、「顧客と協調」し、「変化に対応」することに価値を置いています。ここで注意が必要なのは、最後の「左記のことがらに価値があることを認めながらも、私たちは右記のことがらにより価値をおく」という一文です。プロセスやツール、ドキュメント、契約、計画に価値がない、必要ない、とは言っていないのです。両方に価値があるけれども、より右記に価値を置くと言っているのです。アジャイルだから計画しない、アジャイルだからドキュメントは書かないと思っている人がいたら、それは間違いなのです。