富士通がパーパスのために取り組む「全社DX」プロジェクト
富士通は時田隆仁社長体制になって以降、矢継ぎ早に事業戦略と社内の改革を推し進めている。従来のSI企業から脱皮し、デジタル化を求める顧客ニーズに対応するために、社内の制度、体制、組織文化の変革に取り組んでいる。この富士通の変革は「全社DX」プロジェクトと呼ばれ、時田社長と2020年4月にSAPジャパンから入社した執行役員常務兼CIO CDXO補佐の福田譲氏が牽引している。
そして、その体制でアサインされたリーダーの一人が、2020年の4月に富士通のCMO 理事に就任した山本多絵子氏だ。12月15日にその山本氏と、今年富士通が戦略的提携を結んだクアルトリクスのカントリーマネージャー 熊代悟氏による会見が行われ、富士通が実施した全社DXプログラムの一環としての顧客・従業員調査の詳細が語られた。
クアルトリクスは調査・分析のクラウド型のプラットフォームを提供する企業で、2019年のSAPによる買収以降も、独自の立場を維持し、2018年での日本拠点開設以来、人員を強化。国内での導入実績も伸ばしている。特に新型コロナウイルスの問題が生じてからは「従業員エクスペリエンス」(EX)を企業の緊急パンデミック対策向けに無償提供するなどの活動を行ってきた。
直近では、ガートナーやフォレスターの調査においてリーダー企業としてポジショニングされ、経済産業省の後援するHRテクノロジー大賞で『アナリティクス部門優秀賞』を受賞するなど外部の評価も高まってきている。今後の計画として、熊代氏は「最も重要なのはいったん契約をいただいたお客様に継続してもらうこと。そのために国内のメンバーを増やしサポート体制も強化し、パートナープログラムを拡張する」と意気込みを語る。
クアルトリクスが提供するのは「XM」(エクスペリエンス・マネジメント)というサービスだ。XMは日本ではまだ言葉としてなじみが薄いが、従来の集計や分析に長期間を必要とするような調査に代わり、デジタルツールにより柔軟な質問設計や即時的な分析をおこなうことで、企業や組織の全メンバーが課題を共有し、組織やビジネスの改善につなげることができるというソリューションだ。
今回、富士通はクアルトリクスとの提携にあたって、自社としてこのツールを富士通自身のDXのプログラムに採用した。背景には、富士通がかかげるパーパス(社会における存在意義)に基づく経営という考え方がある。
両利きの視座からの「CX」と「EX」
富士通の全社DXのためには何が必要か。背景にあったのは、「既存事業の深化」と「新たな事業の創出」という「両利きの経営」の視座だ。既存事業をCX(顧客経験)、事業創出をEX(従業員視点)から掘り起こし、様々な打ち手と連携して改革を行うというのが、富士通の全社DXモデルだ。CXについては、山本氏がリードし、EXについては同じく全社DXの主要リーダーである執行役員常務の平松浩樹氏が担ったという。
前提として「富士通は既存事業に最適化されすぎているのではないか」という課題意識があった。重要なのは、顧客や従業員の声を聞き、そこで抽出された課題や要因の判断、変化の予兆を「経営に組み込む」ことだと山本氏は言う。
山本氏によれば、CXとEXは「鶏とタマゴ」の関係。従業員のエンゲージメントとモチベーションによるEXが向上すれば、顧客へのサービスや商品の向上につながりCXも上がるという。
「CXやEXと言うと非常に難しいことのように思われるが、まずはお客様や社員の声を聞くことから始まります」と山本氏。富士通ではこのプロジェクトを「VOICEプログラム」と名づけた。