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三菱ケミカル 常務執行役員 加藤淳氏×Apptio 代表取締役社長 成塚歩氏 対談

 世界の大手企業やデジタル企業がDX推進で活用するSaaSソリューションの「Apptio」。この日本法人の代表である成塚歩氏の寄稿連載「IT as businessを実現するTBM入門ガイド」が3月15日より始まりました。今回はTBMを推進する成塚歩氏と、TBM的なメソドロジーを行ってきたという三菱ケミカル 常務執行役員の加藤淳氏、小社の押久保剛統括編集長 兼 EnterpriseZine編集長の鼎談を開催。日本におけるIT部門の課題をどこにあり、どう解決するのか? ベンダーと事業会社の経験を持つ加藤氏から話を聞きました。

7つのルールで信頼関係を作る

押久保剛(以下、押久保):今日はApptioの成塚歩代表と、三菱ケミカルの常務執行役員でデジタル&インフォメーションテクノロジーを所管とする加藤淳氏と私によるオンライン鼎談です。成塚さんは本誌でTBMの連載をお願いしておりますが、加藤さんと私は初めましてとなります。

Apptio 代表取締役社長 成塚歩氏(写真左)三菱ケミカル 常務執行役員 加藤淳氏(写真右)
Apptio 代表取締役社長 成塚歩氏(写真左)三菱ケミカル 常務執行役員 加藤淳氏(写真右)

加藤淳氏(以下、加藤氏):そうですね。よろしくおねがいします。簡単に自己紹介をすると、i2 Technologiesや日産自動車を経て2017年からコカ・コーラボトラーズジャパン、そして今年2021年から三菱ケミカルに在籍しています。

押久保:事業会社だけでなく、ベンダー側のご経験もあるというわけですね。

加藤:最初はコンサルやベンダーが中心のキャリアでした。成塚さんとの出会いは事業会社時代です。もう4年前くらいになりますが、最悪の出会いでした(笑)。当時私はコカ・コーラで、成塚さんはマイクロソフトに勤めていましたね。私は同社のシステムの東西統合という大きな仕事をしていました(注)。

 コカ・コーラは米国が本社で、同じく本社が米国のマイクロソフトのソフトウェアをグローバルで契約していました。だから私たちも日本でマイクロソフトのソフトウェアを推進しようとしていたのですが、日本マイクロソフトのメンバーがよくわからない回答をしてくると部下たちがいう。そこで、私が話すから日本マイクロソフトにそちらも責任者を出しなさいと言って登場したのが成塚さんでした(笑)。

成塚:社内でも加藤さんは厳しい方という話がでていて、総出でお伺いしましたね。でも、その時に加藤さんとお話をして、厳しい方なのですが、同時に優しさも感じられました。「日本も米国も関係ない、仕事をいい形で推進したい」といったような話をされたのが、記憶に残っています。「君たちがマイクロソフトの本社に言えないなら、私が直接言おうか」みたいなこともおっしゃっていて。それが冗談ではなく、実際に日産も含めて事業会社の経験からつながりも多い。嘘がなくて、まっすぐ。仕事に対するその姿勢は、勉強させていただきました。

加藤:見せましたよね? 7つのルール。

成塚:はい、見ています。写真も撮らせてもらって、今ももっていますよ(スマホを見せてくれる)。

加藤さんがいつも持っているという7つのルール(画像現物より編集部が作成)
加藤氏がいつも持っているという7つのルール(画像現物より編集部が作成)

押久保:これはなんですか?

加藤氏:Webの記事で読んだ営業マンの心得のようなものですね。読んだ時に感銘を受けて、それから私自身のモットーとして掲げているものです。私は仕事をする上で、人種も言語も関係ないと思っていて、自分自身を見せて相手と向き合うことが大切だと考えています。そのためにもこの7つのルールを大切にしています。

※2017年4月に東日本と西日本のボトラー2社が統合され、コカ・コーラ ボトラーズ ジャパンが生まれた。

CIOは経営の一翼を担う意識を持つべき

押久保:2021年に三菱ケミカルにジョインされたきっかけはありますか?

加藤氏:2019年ころから、様々な企業に声をかけていただき、オファーもいただいた。私の個人的なキャリアコーチ講師は、「最終的にオファーをいただいてから悩みなさい」とおっしゃっていて、そのオファーをいただいた企業の中に三菱ケミカルがありました。では、なぜ三菱ケミカルかというと理由は大きく2つ。

 まず会社がダイバーシティ&インクルージョンを含めた変革を推進しようとしている気概を、強く持っていたこと。もう一つは、ITに非常に課題を抱えていたこと。コカ・コーラや日産自動車で経験したことを生かせると思い、決めました。

成塚氏:今、加藤さんは情報部門のトップとして三菱ケミカルにいらっしゃると思いますが、CIOについてはどのようにお考えですか? 私は以前から日本のCIOが変化していくべきで、それを支えていきたいと考えております。

加藤氏:CIOには、Officerがついています。つまり、経営の一翼を担う役職であり、経営者の一人です。つまり、ITの専門家ではなく、ビジネス=経営を語れなくてはいけない。会社の戦略を理解し、それを踏まえた上でデジタルやIT技術でどのような貢献ができるのか。それは付加価値の付与でもいいし、加速化でもいい。ビジネスとしてどのような結果を出せるのか。私自身も常々そのように意識して動いています。

 三菱ケミカルもウォーターフォール型の文化が主だったものを変えようとしています。具体的には、一ヵ月でアジャイル式に、アウトプットして見せていこうとしています。ビジネスは日々変わります。失敗も成功も早いほうがいい。「付加価値が1年後です」とかいうのは、だめでしょう。

成塚氏:「見せていく」は加藤さんのキーワードではないでしょうか。自分たちの進捗や方向性をベンダーにも見せていきますよね。Officerとしての目線、そしてステークホルダーに「見せていく」という考え方。Officerだから「見せていく」のかもしれませんが。

押久保:日本のCIOの方の多くはずっと1社にいて、情報システム部からCIOになったという人も多い。その場合、経営者目線を持つのはなかなか難しいかもしれません。そういう意味で、同じCIOでも日本とグローバルではギャップがありますね。

加藤氏:ギャップはありますね。別に意図しているわけではありませんが、日本のCIOの方とのお付き合いはあまりないですね。海外のCIOとの交流は多いですが。彼らと話すと経営の話、ビジネスの話になります。ITの話はあまりしません。

成塚氏:加藤さんとお話をすると、経営のことも広範囲に知見があり、どのように学ばれているのか気になります。

加藤氏:勉強はしていますが、行動した結果かもしれません。私はSAPの本社の人と話したいと思ったら、ドイツまで行き、一人で入り口に向かいます。気になれば電話もするし、メールもする。ダイレクトにつながることを心がけているので、そこでの学びは大きいかもしれません。日本の閉じた世界の中で商売をしているSIerさんが持っている情報から学ぼうとするのか、自分でダイレクトにグローバルで学ぼうとするのか。事業会社の目線でいうと、この差は大きいと感じています。

TBMはカルテのようなもの、ファクトベースで判断ができる

押久保:今、本誌ではTBMの連載を開始しています。TBMについてはいかがでしょうか?

加藤氏:日産自動車にいたとき、2005年くらいでしょうか。アプリケーションのポートフォリオを見ることができるソフトウェアを自分たちで作ったことがあります。その後、Apptioが2007年に誕生して使ってみようと思ったのですが、当時は非常に高額で自分たちの作ったソフトウェアを使い続けていました(笑)。

 Apptioやその設計思想にもなっているTBMは、医療におけるカルテのようなものだと捉えています。これまでITは、ファクトベースで評価をしていく考え方が足りていなかった。データにしても、アプリケーションの利用率にしても、どのように評価できるのか? 評価ができないものは、そもそもビジネスで使うべきではない。日産自動車時代は、そのファクトベースの診断書は、私自身のメソドロジーで作っていたわけです。

TBMはカルテのようなもの
TBMはカルテのようなもの

 TBMを見た時、100%一致はしないが、私自身のメソドロジーと似ていると感じて、これはいいと思いました。私自身のメソドロジーは私自身しか使えないようなものだった。それをTBMは体系化してある程度知見があれば、使えるようにしてある。これがあると、社長に診断書をいつでもすぐ出せるのです。「社長、コレステロール値が上がりました、下がりました」みたいにね(笑)。

成塚氏:売上報告などと同じように定量化されたデータを見せられる。

加藤氏:そうです。大切なのは戦略に沿ったKPIを立てて、そのKPIを継続的に見る。そして見せていくこと。そうすることで「良くなりました。なぜならこれをしたから」とか、「悪くなりました。なぜならこれを忘れていたから」とファクトベースでロジカルに説明ができる。

 私はこの考え方で10年以上やってきています。逆にこうしたカルテのようなものがなければ、説明ができないはず。みんなどうやって説明しているのだろう。カルテがなくても「体調が悪いです」とはいえても、それが「風邪」なのか「インフルエンザ」なのかは診断項目を見ていかなくては判断できないと思うのですよね。

成塚氏:継続して見せていくことの重要性は非常に高いですね。あの、ライセンスが高いという件は、そこは調整していくようにしてまいります(笑)。

押久保:公開商談みたいですね(笑)。

加藤氏:SaaSの料金体系は、変わってほしいです。事業会社はROI(投資対効果)で考えるから、ソフトウェア会社もコンサル会社も出た価値に対して何パーセントお支払いという風にしてほしい。昔から成功報酬型にしてと言っているのですが、なかなか転換しないですね。まあ、困るんでしょうね(笑)。

日本の女性CIOは増えるべき そしてこれまでの働き方の常識を疑う

押久保:先ほどCIOという同じ役職でも日本とグローバルでは働き方、考え方が違うという話が出ました。加藤さんから見て、課題感がある部分はどこでしょうか。

加藤氏:CIOをとりまく日本の課題の一つが、女性CIOの少なさ。数人しかいません。私が知る限り、塩野義製薬の澤田拓子さん(現・取締役副社長)。彼女はIT専門家ではありませんが、CIOの役割も担っていました。もう一人は中外製薬に行かれた志済聡子さん。IBMから転身された方ですね。

 私が勤務していたフランスやアメリカはイメージですけど、半分くらい女性なんですね。やっぱりダイバーシティっていうのはありますけど、男性だけがやるポジションではない。発想の転換ができるためにも日本にもっと増えないといけない。自分も意識していて、後継者には必ず女性が入るようにアドバイスしています。

 あと、日本で顕著な課題といえば、階層の深さ。元請け、孫請け、ひ孫請け、玄孫請け……みたいなことが往々にしてある。私はあなたに発注したのに、作っているのはその3つくらい先にあったりする。行政も同じで、効率がとにかく悪い。そうならないためには、発注者側がしっかりスキルを身につけて、選別ができるようにならなくてはならない。適切な価格と納期を見極められるくらいのレベルまで高まれば、変化が起きていきます。

 世界中にいい技術は転がっています。目の前の人の話だけでなく、自ら海外に目をむけて、積極的に取り入れる。これが早くできるかでだいぶ違う。コロナ禍でビジネス環境もだいぶ変わりましたよね。リモートも含めて、どうやって仕事を変えていくか。早く実現した人が勝つ。スピード感が重要で、これを私はベロシティ(Velocity)って言っています。会社の方向性、ビジネスを支えるために、早く結果を出すことを念頭に置いています。コロナ前には戻らないので、過去ではなく前へ。

押久保:三菱ケミカルではどのようなことをしていこうとお考えか教えてください。

加藤氏:サーキュラーエコノミー、カーボンニュートラルですね。DXの側面ではスマートファクトリーですね。プラントのスマートファクトリー、スマートプラント化を目指しています。キーとなるのはデータですね。構造データだけでなく、非構造も含めて、ちゃんとビッグデータとして管理し、データドリブンの会社として生まれ変わらせる。

 情報システムの中だけでいうと、パワポ、エクセル、メールのない世界にしたい。前職でも同じことをいっていて、ゼロにはなりませんでしたがメールは半減しました。昔、紙だったものがマイクロソフトのOfficeでデジタルになった。これがインダストリー2.0だとして、ずっとそこで止まっている。ビジネスは変化しているのだから、3.0や4.0があってもいいはずで、まずはそういった部分も変えていきたい。

成塚氏:働き方が変わってきますね。TBMは、TBM Councilというコミュニティをもっていて、日本でもこれからITリーダーやCIOの方々のネットワークを作っていこうとしているのですが、そこへの期待などもご教示いただけますか?

加藤氏:TBM Councilは海外では、進んでいますね。CIOとかCFOにしてみると、お金はファクトベースで見せていかないと出てこない。だから「見せること」が当たり前になっている。日本は何にお金を使っているのかを「見せたくない」。本来、「見せること」は自分自身にとって武器となるのに、それができない。

 これは政府も同じですよね。なぜこんなにお金があるのに有効に使われていないのか? と多くの人が感じていますが、それを分析する材料を「見せない」。「見えない」から、改善ができない。改善ができないから、成長できない。その点、人間ドックのようなカルテであるTBMを作り続けるTBM Councilを日本の経営者やCIO、CFOが知ることで変化してくれるのではないかと期待しています。

TBMをさらに詳しく知りたい方におすすめ!

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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