データベースの形で安全にデータを共有したい
ウェザーニューズには鉄道や航空会社、さらにはスーパーのような流通企業など多様な企業に対して、きめ細かい気象情報を提供するBtoB事業と、一般の消費者向けに幅広く気象情報およびプラットフォームを提供するBtoC事業がある。同社のモバイル・インターネット事業部 マーケティング&セールス担当の井原亮二氏は、BtoCの部署に所属しながら、様々な顧客に合ったデータを適切なプラットフォームで提供している。
同社ではBtoCのサービスとして、天気とテクノロジーを組み合わせた「WxTech(ウェザーテック)」を展開。陸海空の交通インフラ、小売業、建設業など既に2,500社の導入実績を誇り、主にビジネスと天気の関係を分析するために活用されている。「様々な企業に気象情報のニーズがあります。それに応えられるように、適切な技術での情報提供を推進しています」と井原氏は言う。
これまでWxTechの取り組みでは、顧客が利用したい目的ベースで気象情報を渡していたという。目的に応じて、時間や場所を特定することで必要なデータを抽出し提供してきた。「たとえば、ある現場の工事を行うために天気を予測したい。そのためには、その場所の過去の天気情報を取得することが必要となり、個別に情報を抽出することでデータを提供してきました」と井原氏は説明する。
この方法では、目的に適したきめ細かな気象情報が提供できるが、目的が明確化していないとデータを取得できないというデメリットもある。一方で、あらかじめデータベースの形で網羅的なデータを提供できれば、受け取ったデータを自社で保有しているデータと連携させることで、新しい価値を生み出す「DX」で活用できる。こういった要望にいかに応えるかは、ウェザーニューズにとって課題だったという。
企業ごとにセキュリティの壁もあり、それを超えてクラウドでセキュアにデータを共有したい。それを実現できたのが、Snowflakeだった。「Snowflakeはセキュアにデータを共有でき、その上でクラウドプラットフォームに依存しません。我々にぴったりのサービスで、使わない手はないと考えました」と井原氏は語る。
WxTechでデータを活用しているのは、“山の中のキャンプ場で安全を確保するため”などの目的をもった小規模企業から、流通や製造など大手企業まで幅広い。規模や業種が異なれば、利用したい気象情報も異なる。そのため、ニーズに合わせて最適なデータを提供するサービスは今後も継続される。その一方で大手企業では、既に自社にデータレイクを整備し、様々なデータ活用に取り組み始めているはずだ。「そのデータレイクの中で、気象データも合わせて活用したいとの要望がたくさんあります」と井原氏は言う。
気象データ共有の仕組みとして、ウェザーニューズが「Snowflake Secure Data Sharing」を選んだポイントは、セキュアにデータを顧客に渡せることだった。その上でAWS、Azureなどクラウドプラットフォームに依存していないため、顧客が既に利用しているサービスで共有できることもポイントだったという。
「たとえば、顧客企業がAmazon S3でデータレイクを構築している場合、そこに外部から接続できるよう設定してもらい、データをコピーできるようにすることはセキュリティのルール上難しいものがあります。このセキュリティの壁を安全に越えられるのが、Snowflakeのデータシェアリングの仕組みだったのです」(井原氏)
国内で初めてSnowflakeとデータプロバイダー契約を締結
ウェザーニューズでは2021年6月に、国内初となるSnowflakeとのデータプロバイダー契約を結んだ[※1]。実際にデータを共有できるようになるまでには、国内で前例がなかったため苦労する点も多くあったという。たとえば、データシェアリングのための情報のほとんどが英語というだけでなく、ドキュメントに沿って作業しても、“どの段階でどの許可を得るか”などのノウハウがなく、Snowflake側に都度確認しながら進める必要もあったのだ。
「データをアップロードするまでにステップを踏み進めるのですが、前例がなく苦戦しました。とはいえ、Snowflakeに助けてもらうことで、なんとかデータを共有することができています。我々の経験を基にしたノウハウが今はあり、その後日本でもスムーズにデータをアップロードできるようになったと聞いています」と井原氏。また現状では、“どのようなデータが共有できるのか”を登録するデータカタログが英語表記となっているため、日本の顧客にデータを届けるためには今後カタログの日本語化も求められるとも言う。
現在ウェザーニューズでは、データクラウドで高解像度の過去天気データを公開している。これを活用することで、“ビジネスの傾向が天気とどのような相関関係にあるのか”を明らかにできる。たとえば、ビジネスと天気との相関関係を見ようとした場合、従来は気象庁が公開しているアメダスのデータを使うことが一般的だった。しかしながら、アメダスのデータは20kmメッシュのため、コンビニエンスストアの店舗を対象としたい場合、データ取得地点と距離が乖離してしまうため、正確な天気情報とならない可能性は高い。
そこでWxTechでは、1kmメッシュの高解像度のデータを提供する。これにより、気象データがその企業にとって価値あるデータとなり、新たな知見が得られるという。その上でSnowflakeを使うことで、特定のデータだけでなく“基盤”として気象情報を提供できるようになる。これは大きな価値があることだと井原氏は強調する。
また、Snowflakeのデータシェアリングの仕組みを使い、WxTechの気象情報の活用を始めた企業があるという。その企業は既にSnowflakeを活用しており、DXのために外部データの利用も検討、その中で気象データを対象に考えていた。ウェザーニューズのデータ提供は、まさにニーズにマッチしたものとなったのだ。
Snowflakeを使った天気データの提供は、まずは大手企業が使うことになるだろう。とはいえ企業規模や業種などを限定するものではない。「Snowflakeの仕組みは従量課金で使え初期費用も高くないため、小規模の企業でも安心して使えます。マーケティングキャンペーンのベストなタイミングを掴む、さらに過去のデータからリスクを予測するなど、企業規模を問わずに気象データを柔軟に活用できるようになります」と井原氏は説明する。
[※1] 「日本法人初、ウェザーニューズが『SNOWFLAKEデータマーケットプレイス』のデータ提供企業に」(2021年6月8日、Snowflake プレスリリース)
提供するデータの幅を拡げ、自社DXにもSnowflakeを活用
気象データを目的に応じて提供しようとした場合、企業側では何らかの企画があり、その中で気象データを利用しようとなるはずだ。特に、これまでは試験段階やPoC段階において試行錯誤する上では、気象データを利用することに難しいものがあった。しかしながら、Snowflakeのデータクラウドなら、目的が明確ではない段階から気象データを活用できる。
データ活用のタイミングが早くなり、それにより企業のデータ活用の動きも変わってくる。このような時代のニーズに合った情報提供ができることは、「我々のデータ提供サービスのビジネスにおいても、適切なプラットフォームを手に入れたことになります」と井原氏は言う。
ウェザーニューズでは、現在提供している1kmメッシュの過去の天気データ以外にも、膨大なデータを蓄積している。未来の天気予測のデータはもちろん、洗濯、花粉、熱中症など指数データなど多様なデータがあり、ユーザーニーズに応じて提供するデータの拡大を図っていく。
さらにウェザーニューズ自身でもSnowflakeを活用して、自社のDXにも力を入れていく。「Snowflakeが進化すれば、ウェザーニューズも進化すると考えています。Snowflakeを社外向けのビジネスにも、自分たちのDXのためにも有効に活用していきたいです」と井原氏。データは自社のものだけでなく、外部のデータと組み合わせることでさらに価値が出てくる。Snowflakeは、そのための基盤となるとも言う。
SnowflakeのデータクラウドでWxTechのデータを利用するユーザーが増えれば、ユーザーがどのようなデータをどれくらい使っているかをモニターして把握することもできる。そういった情報も活用し、データ共有の基盤を発展させることで、より活用しやすいデータを提供していく。これにより、ウェザーニューズ自身の顧客との関わり方も変化していくことになるだろうと井原氏は言うのだった。