長い付き合いになるからこそ「共感」が大切
携帯電話の新規加入者増が見込めず、料金やサービスへの圧力がかかる中、最大手であるNTTドコモはキャリア事業からスマートライフ事業への拡大を図っている。「dポイント」はその要となるプログラムだ。現在の会員数は約8900万人(2022年10月取材時点)。会員数は増加傾向にあり、サービスも「dTV」「dヒッツ」など拡充中だ。
当時同社はオンプレミスでデータ基盤を構築していたが、データ量や利用に追いつかない状況となっていた。「データ量は急増し、さらにはそのデータを事業に活かしたいという経営陣からの要請も強くなっていました」と日影氏は振り返る。
2019年頃にクラウドファーストで抜本的に作り直すと言う構想が固まり、本格検討に入る。主要なクラウドベンダーなどを比較検討した結果、Snowflakeを選定。その理由として「性能など技術面の優位性」はもちろんだが、日影氏が挙げた言葉が「ワクワク感」だ。
「将来的により事業を拡大展開することがわかっていたため、Snowflakeが掲げる『データクラウド』というビジョンにワクワクしました。クラウドベンダーとは付き合いが長くなることもあり、共感できるベンダーと手を組んでいきたい。ここが決定打になりました」(日影氏)
特に、Snowflakeがデータを使用するユーザーの声を聞き、それを製品に反映させているところがワクワクにつながっていると話す。
1年で導入から活用、スピード展開支えた組織
これまでのオンプレミスからクラウドに変わることに対する不安はあった。「IT部門の中で、データベースをSaaSで使うことに対して懸念があったのは事実です。だからこそ、そこは透明性をもって対応いただきました」という。具体的にはセキュリティ、性能、コストなどだ。
特に、NTTドコモがSnowflakeに載せるデータの規模は当時、日本では最大級。世界的に見ても大規模だったため、IT部門のメンバーは情報収集も欠かさなかったという。パートナーのSI事業者から得た先進的な話なども役に立ったそうだ。
最終的にはPoCを通して確信を得たとし、懸念していたセキュリティについて「Snowflake自身がセキュリティに対する意識が高かったのは重要なポイントでした」と日影氏。「クラウドのセキュリティを担保する方法など勉強になりました。社内に対しては、海外におけるSnowflakeの事例を紹介することで賛同を得ていきましたね」と振り返る。
このようにして疑問点をクリアにしながら、検討に1年弱、導入も1年足らずで終えるというスピード展開で進めた。本格展開から1年を迎えた段階には、社内のデータの8~9割が既にSnowflakeに移行していたという。
こうしたスピード感のある展開を支えたのが組織面での変革だ。Snowflake導入にあわせて、データガバナンスやデータカタログ、Snowflakeとつなげる分析ツールなど、必要な作業ごとにチームを作成し、フラットにつなげた組織体制を敷いた。これが迅速に進めることができた秘訣だとして日影氏は、「ある程度目標が定まったら、あとはどんどんやってもらいました」と語る。
保守から解放され、創造的な取り組みができるように
では、短期間での導入の裏側で、実際にユーザー側はどのようにSnowflakeを見ているのだろうか。
「実は当時Snowflakeさんの知名度は社内でそれほど高くなく、逆風が吹きました」と日影氏は苦笑する。PoCの結果を見せ、実際に触ってもらって理解を得ている中で、Snowflakeの名前も少しずつあちこちで聞かれるようになり、風向きが変わったのだそうだ。
特にユーザーから評価された点として、速度、使い勝手などが挙げられるという。「何かツールを使いたいとなったとき、Snowflakeのオープン連携が役に立っています。これまでなら開発期間をかけていたものがかなり短縮され、ユーザーが使いたいときにすぐに提供できます。ユーザーにとってタイム・ツー・マーケットは重要。そこに貢献できていると感じます」と日影氏は話す。
また、Snowflakeでなければ実現できないことも増えている。日影氏が活用例として紹介したのは、機械学習やAIだ。「ユーザー部門の担当者は、さまざまなツールを経由してSnowflake上のデータにアクセスしており、最近では機械学習やAIの学習をしたいという要望も出てくるようになりました。オンプレミスのときには、取り扱うデータ量が多いため転送だけでも多くの時間がかかっていましたが、Snowflakeを利用することでリアルタイムに近い形で学習でき、それをすぐに施策に活かすことができます」。実際に、データマーケティングチームの作業を1~2営業日短縮できている例が増えているそうだ。
運用側も大きなメリットを感じている。「SaaSという特徴を活かしてフルに拡張できるため、使いたいときに使えますし、我々が面倒を見る必要もありません。サーバーの状態を監視するという作業からも解放されました」と日影氏。時間が浮いた保守要員メンバーが、先進的な取り組みを進めるようにシフトしているのだそうだ。
データ活用により社会をよくしていきたい
あらためて「DATA DRIVER OF THE YEAR」受賞について日影氏は、「暗中模索で一気に走ってきました。このような賞をいただいたことで、我々の取り組みは間違っていなかったと全員で喜んでいます」と笑顔で話す。
今後は、NTTグループ内でも広がりつつあるSnowflakeの利用を受け、Snowflake間でデータメッシュを作成するという構想も立ち上がりつつあるという。「それぞれがオリジナルデータをしっかり持ちながら、それを使える環境をつなげていくという世界を実現したい」と日影氏。「データの世界では日進月歩で新しいツールが出てきています。Snowflakeにはそれを安全に試すことができるサンドボックスのような機能があるので、その検討を進めています」と続ける。
最後に日影氏は、「ドコモだけではなく、データを使う人たちは皆、データを使ってより良い社会にしたいという思いをもっています。Snowflakeさんにはぜひ、中心的な役割になって我々が学びを共有できるようにしていただきたいですね」と期待を語った。