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JAL「DX銘柄」選定から約1年──天王洲のラボからCAや整備士、他社を巻き込みイノベーション興す

「ワクワクできる楽しいことをやってくれ」から始まった新規事業創造


 2010年の事実上の経営破綻や2020年からのコロナ禍など、苦境に立たされてきた日本航空。逆風の中で、継続的なデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組み続け、2021年には経済産業省が東京証券取引所と共同で選定する「DX銘柄」にも選ばれた。そうしたDXに加えて新規事業創出を担うのが、天王洲にラボを構えるデジタルイノベーション本部だ。2017年に前身組織であるデジタルイノベーション推進部を立ち上げ、現在は部長として部門を統括する斎藤勝氏に、これまでの経緯や取り組み、そして未来への展望などについて伺った。

なぜJALは本社と別に「試しながら議論できる場」を作ったのか

 日本航空(以下、JAL)におけるDXおよび新規事業創出を担うデジタルイノベーション本部。その拠点となっているオープンイノベーション施設「JAL Innovation Lab」には、社員はもちろん社外からも人が集まって様々なアイデアを出し合い、空港や機内を模したスペースでプロトタイプの実験が行われている。新規事業プロジェクトとしては、将来を見据えたまったく新しいイノベーションやアイデアとともに、足元を見つめた事業構造の改革や改善のためのプロジェクトが数多く進行中だ。

「JAL Innovation Lab」とは(日本航空『Labチャンネル』より)

 前身組織である「デジタルイノベーション推進部」が作られたのは2017年。2010年の上場廃止から経営再建を果たし、再上場後に業績を伸ばしつつあった頃で、さらなる飛躍を喚起しようという、社長肝いりの組織だった。

 「当時のJALでは、利益を最大化するために無駄をなくすという“コストコンシャス”(採算意識)が求められ、誰もが制限・圧縮という雰囲気の中で我慢を重ねていた頃。会社全体が萎縮して、新しいことに取り組もうというマインドが失われがちでした。そんな状況を懸念した社長が、デジタルの活用や新規事業など、新しい取り組みにチャレンジしやすい仕組みや環境を整えたいとして『デジタルイノベーション推進部』を新設したのです」

 しかし、部署ができたとはいえ、開設直後は斎藤氏のみ。社長からは「新しいことをやってくれ」「ワクワクできる楽しいことをやってくれ」といわれ、その壮大なリクエストに戸惑いつつ「何をするべきか」を考えることから始めた。

 「折しも、同年11月には、旅客系基幹システム(PSS)を実に50年ぶりに刷新するという『SAKURAプロジェクト』のリリースが決まっており、事業の土台となるDX基盤が出来上がったところでした。その上で主幹事業のオペレーション改革などはもちろん、“新しい何か”によってサービスの差別化、顧客満足度の向上を図ることが期待されていました」

 “新しい何か”を実現させるためには、人と情報が必要であり、それらが出会う場が必要。そう考えた斎藤氏が、2018年4月にオープンイノベーションの拠点として開設したのが「JAL Innovation Lab」というわけだ。羽田空港やJAL本社からほど近く、天王洲の運河に面した広々としたスペースには、オープンなガラス張りの会議室とともに、チェックインカウンターや搭乗ゲート、機内の座席などが配置されている。

 「お客様が空港に到着してから飛行機に搭乗される一連の流れにあわせて再現しました。私たちは『ラボ』と呼んでおり、実験場のイメージで作っています。現場スタッフはもちろん、時には社外のパートナーにも来てもらい、喧々諤々とアイデアや改善ポイントなどを出し合う場になっています。『まだ何をするのかすら決まっていないうちから場所を設けるなんて』という声もありましたが、本社の一角にラボを設けるとどうしても既存の仕組みや事業から離れられず、リスクや費用対効果といった保守的な声が上がってしまいがちです。イノベーションを生み出す場として、まずは本社とはまったく異なる場を作りたかったのです」

 ラボの立ち上げにおいては、組織設立の直後から他社の新規事業創出の場を国内外問わず見学に行ったという。コワーキングルームやR&D、中にはショーケース的なものもあり、企業ごとに様々なイノベーション&新規事業創出における考え方が現れたものだった。それらを参考としながらも、JALが必要としている「ラボのあり方」を考え、現在の形へとたどり着いた。

 「空港も飛行機も自由に使えるわけではなく、天候やセキュリティなどのハードルもあるため、リアルな場においてカスタマージャーニーをテストすることが難しいというのが私たちの悩みでした。当然ながら安全かつ効率的に飛行機を運航させることが必須なため、現場から了解を得るのも一苦労です。そこで、アイデアを創出するときはもちろん、現場のスタッフも一緒になってプロトタイプを試せる場を作ろうと考えました。さらに会議室と併設することで、“試しながら議論できる場”にしたのです」

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CAや整備士も挙手、アジャイルかつ多角形なコミュニケーションへ

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この記事の著者

伊藤真美(イトウ マミ)

フリーランスのエディター&ライター。もともとは絵本の編集からスタートし、雑誌、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ビジネスやIT系を中心に、カタログやWebサイト、広報誌まで、メディアを問わずコンテンツディレクションを行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

岡本 拓也(編集部)(オカモト タクヤ)

1993年福岡県生まれ。京都外国語大学イタリア語学科卒業。ニュースサイトの編集、システム開発、ライターなどを経験し、2020年株式会社翔泳社に入社。ITリーダー向け専門メディア『EnterpriseZine』の編集・企画・運営に携わる。2023年4月、EnterpriseZine編集長就任。

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