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IBMからスピンオフした「キンドリル」は何が変わった? 設立からブランディングを担うCMOに聞く

社員ファーストを公言する同社、新しいサービスカンパニーを目指す取り組み

 コロナ禍の2021年9月、IBMからのスピンオフとして世界最大のマネージドインフラサービス企業「キンドリル」が誕生した。キンドリルは分社化の直後にニューヨーク証券取引所に上場し、ハイパースケーラーとの提携を発表するなど、迅速に動いている。なぜ分社する必要があったのか、キンドリルが目指すものは何か──分社化前からマーケティング面から関わっていたという同社 最高マーケティング責任者(CMO)のマリア・バルトロメ・ワイナンズ(Maria Bartolome Winans)氏に話を聞いた。

“大きなスタートアップの船出”で取り組んだ、社員ファースト

──ワイナンズさんはキンドリル立ち上げに尽力された設立メンバーと伺っています。まずはIBMから分社化した目的について教えてください。

 私は3人目の従業員として、最高経営責任者(CEO)のマーティン・シュローター(Martin Schroeter)らとともにキンドリルの立ち上げを進めました。それ以前は、IBMアメリカのCMOとして、米国・カナダ・ラテンアメリカ地域のマーケティング活動を統括していました。

 分社化の目的は、顧客が望むサービスを提供するサービスカンパニーになるためです。IBMというテクノロジー企業の一部である限り、参加できるエコシステムが限られています。お客様の環境、それからハイブリッドクラウド、マルチクラウド、エッジコンピューティングなどの技術トレンドを踏まえると、より幅広いパートナーエコシステムに参加しなければ、顧客が求めている、そして顧客がやりたいことを実現するために必要なハードウェア、ソフトウェアのポートフォリオを提供することができません。そのためには分社が望ましいと考えました。

 私が参画を決めたのは、マーケターとして、新しい企業が市場でポジショニングを確立するのを手掛けることは、またとない機会だと思ったからです。しかも、キンドリルは新しい企業でありながら、既に顧客がいて、9万人という従業員もいます。大きなスタートアップの船出を成功させ、その後の航路を作る、これを素晴らしいチームとできることは一生に一度のチャンスだと感じました。

──現在のキンドリルの事業戦略について教えてください。

 現在の技術領域は、クラウド、メインフレーム、デジタルワークプレイス、アプリケーションとデータAI、セキュリティとレジリエンシー、ネットワークとエッジと大きく6つです。これを、マネージドサービス、それにコンサルティングの「Kyndryl Consult」、デザイン主導の共同開発サービス「Kyndryl Vital」、統合プラットフォームの「Kyndryl Bridge」を通じて支援します。

 キンドリルとして自由に動くことができるようになって最初にやったことの1つが、ハイパースケーラーとの提携です。

 2021年11月にスタートしてすぐにMicrosoftと提携、その後Amazon Web Services(AWS)、Google Cloudとの提携も発表しました。その他にも、幅広いエコシステムに参加するための提携を重ねています。分社化して幅広いエコシステムに参加できるようになったことを示していると言えます。

──分社化の前後で具体的にどのようなことに取り組んだのでしょうか?

 分社化を発表する1年前から議論と作業を進めてきました。リーダーシップチームの構築はマーティンが中心に進め、私は市場でのローンチ、上場の準備を進めました。その中には、分社化の理由を既存顧客、パートナー、そして社員に説明することも含まれます。また、IBMからキンドリルへの移行にあたってのフレームワークづくりも行いました。

 キンドリルは新しい企業であり、IBMから継承している素晴らしいものもある。サービスカンパニーを目指すにあたって、マーケティング側ではその意識を植え付け、浸透させることを重視しました。

 「キンドリル(Kyndryl)」という社名は、親類関係などの意味を持つ“kinship”の「Kyn」、植物の巻きひげの意味で成長を象徴する“Tendril”から「Dryl」を組み合わせた造語です。社員、顧客、そしてパートナーとの強い結びつきと、ともに成長していくという意味を込めています。

 キンドリルは、顧客のビジネスの心臓であり、肺であるミッションクリティカルなシステムを動かしています。それを支えているのはキンドリルの社員です。つまり、我々の事業の中核は、社員一人ひとりとその専門知識です。社員の心臓の鼓動がキンドリルの活力なのです。

 このように、キンドリルはテクノロジーを売るのではなく、社員とその専門知識であるということを踏まえ、ブランディングでは社員を前面に出すことにしました。IBM時代は、テクノロジーやソリューションについて外部にマーケティングしており、社員の見解を外部に示すことはほとんどありませんでした。キンドリルでは、「Meet the Experts」として社員の専門知識、人物像を紹介するキャンペーンを組みました。

 社員に対しては、LinkedInなどのソーシャルメディアで活発に自分の見解をシェアするように促しています。社員が自分が思っていることをソーシャルで発信するようになったことは、変革の大きなエンジンになっていると感じます。

 私は、売上ではなく、常に社員を優先させるべきだと考えています。社員が仕事に情熱を感じてハッピーであれば、顧客もハッピーになり、ビジネス関係を継続できます。これが売上につながるという好循環をもたらします。

次のページ
「Kyndryl Way」の定義で社員の帰属意識が改善

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この記事の著者

末岡 洋子(スエオカ ヨウコ)

フリーランスライター。二児の母。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている。

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