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週刊DBオンライン 谷川耕一

イトーキ、130年伝統企業のDX:オラクルから転身した湊社長が描く「AIとデータの戦略」とは

 人口が減り就業人口が大きく減少する中、これまで通りのオフィス家具製造、販売のビジネスではビジネスの成長は見通せない。そう考えていたのが、老舗オフィス家具メーカーのイトーキだ。同社のビジネスを変革するには、ITで効率化しデジタル技術の活用が必要だ。そのために外資のITベンダーなどで多くの経験を積んできた、湊 宏司氏が2022年3月に同社の社長に就任した。イトーキのデジタル化の取り組み、そしてデータやAIを活用するデジタル変革について、湊社長に話を訊いた。

日本オラクル副社長から老舗オフィス家具メーカーへ──最初に出会った「前例主義」の壁

株式会社イトーキ 代表取締役社長 湊 宏司 氏

 日本電信電話株式会社やサン・マイクロシステムズ、そして直前は日本オラクルの取締役 執行役 副社長 最高執行責任者の立場だった湊氏は、創業1890年、130年以上の歴史がある老舗オフィス家具メーカーのイトーキに転身した。就任した当初、イトーキの経営層のITに対する「無頓着さ」には驚かされたと言う。

 経営層はもちろん、ITシステムの予算執行などの判断は適宜行っていた。しかしその中身に関しては、あまり関心がなかったようだ。またIT部門も「前例踏襲主義」で、今までやってきたことにさして疑問も持たず、大きな見直しなどもしてこなかった。つまりIT部門は受動的な組織となり、ITシステムにかかるお金はまさにコストとなっていたのだ。

 一方で「業務の現場では、創意工夫をしていました。たとえば家具を製造する工場では、品質担保のために画像認識などのAIを活用していたのです。椅子の開発ではバーチャルリアリティー技術を用い、仮想的に椅子を設計するような取り組みも行っていました」と湊氏。かなり先端的な技術を、現場エンジニア自らが開発し活用しているところもあるのだ。

ログインIDはメールアドレス、パスワードは個人情報!?

 とにかく、イトーキのIT環境には課題が多かった。「驚いたのは、ITシステムへのログインIDがメールアドレスで、パスワードは個人情報から得られる情報を固定化していたことです」と湊氏。つまり簡単にID、パスワードが特定でき、システムに容易に他人がアクセスしかねない状態だったのだ。これは大きなリスクだったが、IT部門はそれが問題とは特に認識していなかった。一方ビジネス現場では、課題を解決するのに最先端技術を率先して使っている。このようにイトーキにおけるIT活用は、かなりちぐはぐだった。

 湊氏は、まずさまざまなビジネス現場を見て回った。工場などでは担当者毎に利用時間を割り当てて共有PCを利用していた。結果的に紙の書類や図面などを使うアナログな職場環境となり、効率的ではなかった。現場担当者に話を聞けば、個人用のノートPCやiPadなどが欲しいと言う。そこでそれらを社員が選べるようにしたが、改めて要望を聞くと現場からはいらないとの答えが。保守的な考えの上司などからノートPCやタブレットをなくすと始末書だなどと脅され、それなら欲しくないとなっていたのだ。

 そこで、半ば強制的に現場にiPadを配る。その結果、紙や回覧板で行っていたような業務が、デジタル化し効率化する。さらに「現場からは新たなアイデアも生まれています。工場などでは、QRコードを読み込めば直ちに必要な情報が見られるような仕組みも生まれています」と湊氏は言う。比較的若手の多い工場などにはデジタルネイティブな人材も多く、便利なツールさえあれば、自ら考え工夫する文化がイトーキに定着していたのだ。

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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)

EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...

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