2025年は、多くの企業にとって生成AIやAIエージェントの可能性を探る「パイロット(実証実験)」の年だった。対して2026年は、そのフェーズが大きく変化する。UiPathが発表した最新のトレンドレポートによれば、「マップを解き明かす」年であり、AIエージェントが試験運用から脱却し、具体的なビジネス成果(ROI)を創出する「実行」段階へと移行するという。同社によるレポート『2026年のAIとエージェンティックオートメーションに関する7つのトレンド』をひもときながら、アジア太平洋・日本地域における動向を探り、理想に偏らない、日本型「ハイブリッド戦略」の有用性を探る。
PoCからROI創出へ 2026年は「マップを解き明かす」実行のフェーズ
「2025年、あるいはそれ以前から、多くの企業がAIやエージェンティックオートメーションに関するPoCや検証を進めてきました。2026年は、それらが『成果創出フェーズ』に入ります」と言うのは、UiPath プロダクトマーケティング部 部長の夏目健氏だ。
これまで、AI技術の導入自体が目的化してしまい、技術検証は行ったものの本番運用に至らない、あるいは本番運用してもビジネス価値になかなか結びつかないケースが散見された。夏目氏は、こうした状況が2026年には一変すると予測する。
企業は過去の経験から学習し、どの領域に適用すれば成果が出るのかを見極め、パイロットから大規模な展開へと舵を切る準備を整えつつあるからだ。
UiPathが示す2026年のトレンドテーマは「マップを解き明かす」というもの。未知の領域であったエージェンティックAI活用の地図が明確になり、企業が主体性をもってその領域を開拓していく。UiPathの発表したレポートでは、これを7つのトレンドに整理している。
トレンド1:再発明の原動力は「必要性」
1つ目のトレンドは、企業におけるオペレーティングモデル(業務運営の仕組み)の再発明だ。夏目氏は、単に新しいテクノロジーを導入するだけでなく、「仕事の進め方、人とデジタルの関係、組織の在り方そのものを大きく変える必要がある」と強調する。
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レポートによれば経営層の78%が、エージェンティックAIの価値を最大化するには新しいオペレーティングモデルが必要であることに同意している。これは、従来の「人が中心となってシステムを使う」モデルから、自律的な意思決定能力を持つ「AIエージェントを中心に据えた」モデルへの移行を意味する。夏目氏は、「人とAIエージェント、従来のロボット(RPAなど)の役割分担を見直し、AIエージェントが自律的に稼働する領域を拡大させることで、経営そのものの形を変えていく必要がある」と説く。
トレンド2:AIによるROIの実現
2つ目のトレンドは、2025年の課題となった「ROIの実現」だ。2026年は、AI導入が単なる技術的な挑戦から、明確なリターンを生むためのビジネス活動へと昇華する。
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ROIを実現するための重要なポイントとして、「課題があり、成果の大きい領域(High Pain, High Gain)」を狙うべきだと夏目氏。かつてのRPA導入時のように「小さく始めて成功体験を積む」アプローチも重要だが、AIエージェントに関しては、負荷が高くインパクトの大きな課題にこそ適用すべきだと説明する。
レポートでも、73%の経営層がエージェンティックAIの施策は「12ヵ月以内に競争上の優位性とROIをもたらす」と予測しており、企業は“付け足し”ではなく、エージェント前提でプロセスを再設計(再発明)することで、その果実をいち早く得ようとしているようだ。
トレンド3:業務特化型AIエージェントの本格化
汎用的なAIモデルだけでなく、特定の業界・業務に特化した「特化型AIエージェント」が台頭するというのが3つ目のトレンドだ。夏目氏はこれを「特化型エージェントのパッケージ化」と表現する。
金融業界のKYC(本人確認)、保険業界における保険料の請求処理など、高度な専門知識とコンプライアンスが求められる領域において、事前構築されたエージェンティック・ソリューションの導入が進んでいるという。既に完成されたソリューションを活用することは、自社開発に比べて測定可能な成果を生み出す可能性が2倍高いとする。
これからは企業がAIエージェントを自社構築するか、あるいは外部ベンダーの製品を導入するかの判断を迫られるだろう。なお、夏目氏はパッケージ型のAIエージェントを活用することで、各社がゼロから構築する時間を短縮し、迅速にROIを達成できると説明する。
トレンド4:群れの力(マルチエージェントシステム)
2026年の大きな転換点となるのが、単体のエージェントから「マルチエージェントシステム」への移行だ。夏目氏はこれを“群れの力”と呼ぶ。
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2025年までは、単体のAIエージェントがなんでもこなす「万能型」が模索されることもあったが、複雑な業務への適用はかなり難しい。代わりに、計画立案を行うAIエージェント、業務を実行するAIエージェント、監視を行うAIエージェントのように、専門分野に特化した複数のAIエージェントが連携し、あたかも群れのようにタスクを完遂するシステムが主流となる。
これにより、エラー発生率を60%削減、プロセス実行も40%高速化が期待できるという。夏目氏は、これらを実現するためには「AIエージェント同士の連携を管理する『オーケストレーション』が重要になる」と指摘する。
トレンド5:コマンドセンターの確立
複数のAIエージェントが自律的に動くようになれば、当然ながら管理・統制が欠かせない。その際、必要となるのが「コマンドセンター」という概念だ。
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夏目氏は、AIエージェントが増えるにつれ「野良AIエージェント」のリスクが高まると指摘する。自律的に判断して動くAIエージェントが、組織のガバナンスから外れて暴走することを防ぐためにオーケストレーション、ガバナンス、エージェント管理を一元化できるコマンドセンター(集中管理機能)が必要だ。
UiPathのレポートによれば、2028年までに70%の企業が中央集約型のオーケストレーションプラットフォームを採用すると予測している。これは単なる監視ツールではなく、人とロボット、AIエージェントの協働を指揮するコマンドセンターとしての役割を果たすものだ。
トレンド6:本気で攻め、ガードレールは強化
AIエージェントの自律性が高まるほど、セキュリティと信頼性の担保(ガードレール)が重要となる。夏目氏は、これを「攻めと守りの両立」という。
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従来のように問題が起きてから対処するのではなく、設計段階、実行時、実行後の保証というすべてのフェーズにおいて、セキュリティとガバナンスをコードとして組み込むアプローチが求められる。
特に重要となるのが設計段階でルールを埋め込むこと、そして実行時にリアルタイムで監視できることだ。これにより企業はリスクを最小限に抑えつつ、AIエージェントに高度な権限を委譲し、ビジネスを加速させられる。
トレンド7:データのメタ化
最後のトレンドはデータだ。AIエージェントが正確に機能するためには、単なるデータの羅列ではなく、文脈(コンテクスト)や意味をもったデータが必要だ。
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夏目氏は、「データに意味を与えるメタデータやオントロジーが重要になる」と述べる。企業内に散在するデータに対し、そのデータが何を意味し、他のデータとどう関連しているのか。データに構造を与えることで、LLMの精度は向上する。また、独自データを構造化して活用することは、他社との差別化にもつながるだろう。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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