世界中にファンをもつメディア戦略
ラウンドテーブルには、FCバイエルン・ミュンヘンでメディア・コミュニケーション ダイレクターを務めるシュテファン・メネリッヒ氏が登壇。メディアとの関係性およびブランド認知の向上における、SAPの活用事例を紹介した。メネリッヒ氏は「30年前は私たちのことを知らなかった都市でも知られるようになり、日本を含めて世界中で有名になった」と振り返る。
同クラブでは1998年にウェブサイトを開設後、YouTubeをはじめソーシャルメディアでの情報発信を開始。2012年にはSAPの支援を受けてCRMを導入した。2020年にはソーシャルメディアのフォロワーが1億人を突破。その背景として、メネリッヒ氏は2016年に自社独自のデータセンターにインフラを構築したことを挙げる。「サプライヤーに頼ることなく、独自のデジタル基盤を手に入れることができた。2018年にはデジタル化を担う『メディアラボ』も設立。今では欧州の他のサッカークラブのデジタル化の手伝いもできるほどになった」と話した。
続けてメネリッヒ氏は、コミュニケーション担当に求められる役割として次の3つを挙げた。1つ目はコンテンツ制作やマーケティングといった「スキル」、2つ目はチームや選手のコンテンツを正しく管理する「権利とアクセス」、そして3つ目は「テック」だと話す。同クラブでは、バックエンドシステムに「SAP S/4HANA」を導入しており、それをベースに各システムやアプリケーションと連携しているという。メネリッヒ氏は「サッカークラブにおいてコミュニケーション部門がテクノロジーの知識を持つことは重要で、サードパーティーに依存してはいけない。そのため、強力なパートナーであるSAPの存在が必要だ」と強調した。
ファンデータを管理する52のシステムをSAPに統合
次に、SAP グローバルスポンサーシップ シニアダイレクターのマティアス・ウェーバー氏が登壇。FCバイエルン・ミュンヘンへの具体的な支援内容として、「ファン&メンバー」「従業員」「選手&コーチ」「ビジネス&マネジメント」の4分野を挙げた。
ファン&メンバーについて、ウェーバー氏はプロジェクトが始動した2014年当時は、ファンデータを管理するシステムが52もあったと振り返る。これらのシステムをSAPに統合し、800万件以上のファンに関するレコードをSAP S/4HANAで管理しているという。加えて、オムニチャネル・カスタマー・エンゲージメント・プラットフォーム「SAP Emarsys Customer Engagement」を活用し、よりパーソナライズしたキャンペーンが展開できているとした。
FCバイエルン・ミュンヘンは、本拠地のドイツ・ミュンヘンだけでなく、中国・上海やタイ・バンコクにもオフィスを構えており、従業員数は1,000人以上にのぼる。そうした従業員を管理し、統一した人事プロセスのデジタル化を支えるツールとして「SAP SuccessFactors HXM Suite」を導入しているという。コーチやグリーンキーパーといった非オフィスワーカー向けには「SAP SuccessFactors Mobileアプリ」を使用することで、スマートフォンから個人データにアクセスできるようになり、業務効率化につながっているとした。
選手向けには、スポーツチーム管理ソフトウェアの「SAP Sports One」を活用。FCバイエルン・ミュンヘンは、2015年の提供開始時、共同イノベーションパートナーの1社だったという。現在は、18ヵ国80以上のクラブや連盟が使用しており、日本国内チームでも使われている。
ビジネス&マネジメントを支えるツールとしてSAP S/4HANAを挙げた。同クラブでは、マーチャンダイジングの注文履行や財務の統制などで使っているという。加えて「SAP Business Technology Platform(BTP)」も併用。たとえば、統合アプリケーションの「SAP Integration Suite」を活用して、ファンシステムやPOSなどからリアルタイムでデータをとることでスタジアムにいる人数をすぐに知ることができるという。
FCバイエルン・ミュンヘンが独自ITインフラをもつ理由
なおメネリッヒ氏によると、FCバイエルン・ミュンヘンのIT部門には約60人おり、デジタルイノベーションプラットフォームやeスポーツを手掛けるデジタル部門には約40人いるそうだ。この2部門が連携して独自のITインフラを管理しているとした。メネリッヒ氏は「私たちはテクノロジーカンパニーではないが、独自のインフラをもつことで、自分たちで責任を持つことができる」と話す。
ただ、同クラブが単体でしているのではなく、あくまでSAPと一緒にしていると主張する。というのも、2016年以前は外部パートナーに任せっきりの状態だったそうで、コストはかかるものの、何が起こっているのか把握できていなかったそうだ。そこからサプライヤー依存をやめて柔軟性をもつことを重視し、独自のITインフラを持つことにしたと説明した。メネリッヒ氏は「(何か問題が起こった際には)自社のスタッフに電話して聞くことができる。柔軟性が高くなったことは間違いない。そのためには、SAPのようにソフトウェアを提供して何ができるのかを教えてくれるパートナーが必要だ」と話す。
また、欧州のクラブチームでは独自のIT組織を持つチームが増えているのだという。独自のプラットフォームという観点ではFCバイエルン・ミュンヘンは先行しているそうだが、他チームも様々なコンテンツを展開している。メネリッヒ氏は「フィールドの中だけでなく、外でも“競争”だと思う」と述べて締めくくった。