CADからBIM、そして「Design & Make」へ
オートデスクは、2次元CADソフトウェアを起点に、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)、3Dモデリング、VR技術、デジタルツインへと技術を拡張し、設計・製造分野に革新をもたらした。近年、同社の製品ラインナップはクラウドベースに移行し、建築土木向け「Forma」、製造業向け「Fusion」、メディア&エンターテインメント向け「Flow」という3つの業種別クラウドプラットフォームを構築している。
「AU2023」のハイライトは、これら3業種向け製品にオートデスクの先進的な生成AI技術「Autodesk AI」が統合されたことである。初日のジェネラルセッションで、CEOアンドリュー・アナグノスト氏は、「Autodesk AIは長年にわたる研究開発の成果」と語り、「Design & Make」を実現するための重要な技術と強調した。
「Design & Make」とは、建築、製造業、メディア・エンターテイメント分野で展開されるオートデスクの設計・デザイン哲学を示す概念である。「Design」は建築空間、工場設備、製造プロセス、映像制作における脚本から動画制作に至るまでを含み、「Make」は具体的な製造物から概念、社会課題の解決までを対象とする。これらの分野における課題解決を加速するのが、同社のAI技術の役割となる。
アナグノスト氏は、自動車業界の変革について言及し、特に電気自動車(EV)の台頭がもたらす影響に焦点を当てた。多くの自動車メーカーが製造プロセスの変革に直面しており、パンデミックの後のサプライチェーンの再編成やビジネスの迅速な復旧に苦労している状況を説明する。AIをプラットフォームの核として統合することで、デザインと製造プロセスの効率と成果を向上させ、業界が直面する大きな課題の克服を支援すると述べた。
EVメーカー「リヴィアン」の挑戦
アナグスト氏は、EVメーカーのリヴィアン(Rivian Automotive)の事例を引用し、同社がデザインスタジオ内のチーム間の隔たりを解消し、デジタルツールを駆使して迅速かつシームレスな協力体制を築いたことを紹介した。VRを利用したデザインの試行や、数ヶ月に及ぶ反復作業の大幅な短縮、AIによるリアルタイムレンダリングを活用した照明や素材の効果のシミュレーションなどの進展を挙げた。また、VRやARといった没入型技術を用いて、製造工程に関わる全スタッフが車両のスケールや形状を理解し、デザイン協力を促進したことも強調された。
エンジニアリングチームやデザインスタジオの多様なスタッフが同時に作業を進める環境を実現し、3年間で事業範囲を大きく拡大したことも紹介される。イリノイ州の大規模工場を含む複数の施設、国内に広がる10〜15の職場、50箇所以上のサービスセンターと充電ステーションでの製造プロセスは、オートデスクの「Fusion」を活用し、スムーズに進行しているという。
続いて、製品開発・製造ソリューション担当エグゼクティブ副社長ジェフ・キンダー(Jeff Kinder)氏は、自動車産業の現況について重要な見解を示した。「自動車産業は100年に一度の変革期を迎えている。変化のペースが加速し、働き方を変える必要がある」と述べ、業界の急速な進化とそれに伴う課題を指摘する。キンダー氏は、オートデスクのFusionがこの変革をサポートしていることを強調し、「デザイン、シミュレーション、エレクトロニクス、製造、工場運営を一つの流動的な環境で統合してきた。今回、その環境に生成デザイン用のAIを導入した」と述べる。
キンダー氏によれば、FusionにおけるAIの重要性はデータマネジメントにある。中央のデータモデルを利用して、異なる分野や部門を結びつけ、設計方法、パフォーマンス、製造方法を明確にする。これにより、デザインスタジオから工場の現場に至るまでリアルタイムでの連携が可能になり、反復工程、プロセスの自動化、工場運営の分析が行えるようになる。このプロセスにおけるAIの貢献は大きい。
例えば、3Dモデルから完全な図面を瞬時に生成することや、製造装置のツールパス(移動経路)を自動で解析し、プログラミング時間を最大80%短縮することによって、製造技術者の非創造的な作業を大幅に軽減することが可能である。このように、AIとFusionの組み合わせによって、自動車産業は効率的かつ革新的な作業手法を採用している。