「合併」と「業界再編の波」をデジタル変革のチャンスに
国内石油産業は、企業間の合併や業務提携を繰り返してきた。特に2000年代以降は、自由競争化での競争力強化と生き残りを賭けて、グループ再編の動きが加速した。2025年4月時点で、我が国の石油精製・元売は、ENEOSを筆頭に4グループに集約されるに至った。そのENEOSが現在の体制になったのは2017年4月のことだ。JXエネルギーと東燃ゼネラルが合併し、JXTGエネルギーが発足。2020年6月にENEOSに商号変更して現在に至る。
2つの会社が合併する時のPMI(Post Merger Integration)プロセスの中でも、IT部門が担当しなくてはならないのが業務インフラとしての基幹システムの統合だ。ENEOSの場合、旧JXエネルギーでは独自システム、旧東燃ゼネラルではSAP ERP Central Component 6.0(以降、ECC 6.0)と異なるシステムを利用していた。安定稼働を重視する場合、どちらかの既存システムの継承を選ぶところだが、当時から問題になっていたのがいわゆる「2025年問題」だ。標準保守期限が決まっているシステムを継承し、新体制でも使い続けるのか。ENEOSの選択は、ゼロベースでのSAP S/4HANA(以降、S/4HANA)を新規で導入することだった。
「当時の所属はIT戦略部ではなかったが、テクノロジー動向を踏まえて、このタイミングならばS/4HANAを選ぶべきだと決断したと聞く。その判断はとても良い判断だったと思う」と田中祐一氏は振り返った。S/4HANAを導入し、新基幹システムとして構築したのが「CoMPASS(Core Management Progressive and Advanced System Suite)」である。稼働開始は2021年7月で、CoMPASSという名称には羅針盤の意味に加えて、経営のためのシステムという思いを込めた。
2017年に導入を決めてから稼働開始までに時間がかかったのは、システム規模が非常に大きく複雑で難易度が高いプロジェクトだったことが理由だ。サービスステーションは社会インフラであるため、年末年始であってもビジネスを止めることができない。田中氏の解説によれば、石油業界のサプライチェーンは非常に長い。「掘削した原油の調達から始まり、タンカーでの輸入、製油所での加工を経て、燃料油、潤滑油、化学品などの製品ができる。さらにその先の一次配送、二次配送、サービスステーションであれば、最後はノズルの先からガソリンが出てくるところまでカバーしなくてはならない。必然的に1つのシステムの中で扱うトランザクション規模が非常に大きくなる」と、システムの特徴を説明した。
