水素エネルギーは日本産業の戦略
次に水素エネルギーの動向について語られた。日本は長年にわたり水素技術の開発に投資しており、特に水素燃料電池の分野で技術的リーダーシップを築いている。「水素がなぜ注目されているかは産業の要請」だと轟木氏はいう。
「水素を使う用途としては燃料電池一択でしたが、ここに来て単純にディーゼルとガソリンエンジンの約10%の部品だけを変えるだけによって燃焼型の水素イオンができたことは画期的です。コストも安く、給油・充電も速い」(轟木氏)
また水素の可能性としては、自動車の輸送のエネルギーとしてだけではなく、産業分野の電力エネルギーの面でも非常に大きな期待が持てることだ。
競争軸は航続距離──PHEVに注目せよ
カーボンニュートラルのためのエネルギーの各国の競争戦略を考える時、この間の競争軸の変化に注目する必要がある。これまでのパワーユニット出力や燃費に加えて、バッテリー搭載量の違いによる「航続距離」が新しい競争軸になっていると轟木氏は言う。
さらにもう1つ重要な点として「電気自動車と自動運転の相性が悪い」ことを指摘する。自動運転のレベルが上がるにつれてセンサー、CPU、GPUの稼働が増して消費電力が増し電気が食われるからだ。
「皆さん休日、平日を問わず走るのは100km。そうなると500km、600kmの航続距離のバッテリーを積んだEVを走らせるのは、重たい文鎮を載せて走るようなものです。これは本当に環境のためでしょうか」と疑問を投げかけた。
最後に轟木氏は、こうしたパワートレインの種別を様々な条件で比較する図を示した。これによると、すべてを条件を網羅できるのはBEVではなくPHEVだということになる。新たな競争軸を踏まえると、「PHEVが多くの顧客満足度を高めるソリューションとなる可能性がある」と指摘する。
「あれほどBEVを普及させてきた中国ですら、ここへ来てPHEVへの関心が高まっています。カーボンニュートラルに向かう新しい競争軸を考えた時、バッテリーEVだけがソリューションではありません。PHEV=プラグインハイブリッドの内燃機関に改めて注目してもらいたいと思います」(轟木氏)