日本ではBEVはまだまだ、中国も頭打ち
発表を行ったのは、KPMGコンサルティング自動車セクターアソシエイトパートナー 轟木光(とどろきひかり)氏。はじめに2020年から2023年までの各地域(日本、中国、米国、欧州)におけるバッテリー電気自動車(BEV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)の割合、そしてその合計(BEV+PHEV)を示した。それによれば、米国、欧州ともBEVは伸びているが、日本の浸透率は低い。また中国に関しては、BEVは2022年までは伸びてきたが、2022年からは頭打ちとなり、一方でPHEVが伸びている。米国は、BEVもPHEVもまだまだ右肩上がり。欧州は、BEVが伸びているがPHEVの比率が減少して、両者の総和も頭打ちという状況だという。
KPMGの調査によると、2030年までの新車販売におけるバッテリー駆動車(ハイブリッド車は除く)の割合を尋ねたところ、2021年から2022年にかけては各国でその割合が大きく減少したが、その後は回復傾向にあるという。轟木氏は、「米国と中国の電気自動車(BEV)市場は成長しているが、補助金の影響が大きい。今後の政策変更によって市場はさらなる変化を迎える可能性がある」と述べている。
日本ではBEVに頼らずともG7目標値は可能
続いて、各国のカーボンニュートラル政策の今後の見通しを示した。2023年に行われたG7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合では、2035年までにG7の保有車両からのCO2排出を少なくとも共同で50%削減(2000年比)の可能性を掲げている。日本においては2001年から2020年の間で、すでに30%の削減が出来ている。「この削減傾向であればハイブリッドがどんどん拡大していき、エンジン車の方も燃費が安くなるので達成できる」としBEVに頼らなくても実現は可能との見通しを示した。
またG7札幌では水素、e-Fuel(合成燃料)、バイオ燃料等の脱炭素燃料について言及された。これまでは、BEVが議論の中心だったが内燃機関のカーボンニュートラル燃料が表に出てきたことで、「各国とも政策的な転換が起きていると考えられる」と轟木氏は指摘する。
「しかし日本はまだまだ黎明期。化石燃料からの移行での世界での競争環境の中で日本は出遅れている」と轟木氏。こうした中で、日本でもバイオ燃料に対しての取組みが進んでいる。エネルギー供給構造高度化法では、石油精製事業者に対してバイオエタノールを原油換算で年間50万kリットルの目標値を義務づけているなどだ。しかしそのバイオエタノールについては、「日本はほぼ100%が輸入、米国が100%が自社で賄える後に対し格段の差がある」と指摘する。
一方欧州においては、再生可能エネルギーの約59%がバイオマスであり、液体バイオ燃料はバイオマスの中の約13%を占める。2021年の欧州の再生可能エネルギーの比率では、太陽光や風力発電に目が行くが、実際にはバイオマスが6割を占めている。またバイオ燃料の中では液体バイオ燃料の比率も大きくバイオディーゼルの比率も大きいという状況だ。
カーボンニュートラルの予測シナリオについては、国際エネルギー機関(IEA)と国際再生可能エネルギー機関(IRENA)では異なるが、いずれの場合でもバイオ燃料が基本になっている。背景には、カーボンニュートラルだけではなく、各国の資源戦略が関係している。2023年の9月にインドで開催されたG20の中では「グローバル・バイオ燃料アライアンス」(GBA)が設立されている。
では、こうしたバイオ燃料の動きとクルマの燃料の関係についてはどうか。バイオ燃料はおおまかに3つの世代に分かれる。1つは植物由来による「第1世代バイオ燃料」 、これについては食糧との競合が課題になる。次にセルロース、廃油などの「第2世代バイオ燃料」だ。ここではバイオディーゼルや飛行機などのサステナブルな燃料としての「SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)」が注目される。高コストであることが課題となる。そして、今後注目されるのが廃油やごみから出てくる「次世代バイオ燃料」だ。作り方も様々で植物由来の糖化発酵、微生物由来の油脂や、都市ゴミや廃食油などのものがある。
「SAFは日本においても、2030年に日本:2,500億~1.1兆円、2050年に向けて市場規模は日本で2.3兆円、アジア全体22兆円になること予想され、非常に大きな市場になることが期待されています」(轟木氏)