Linuxの多様性とユーザー重視の姿勢を強調
インタビューに先立つ記者会見で、ルーウェン氏は「Linuxの多様性を保持し、ユーザーを重視する」ことを強調していた。SUSEは2023年、CIQ(Ctrl IQ)やOracleとともに業界団体「Open Enterprise Linux Association(OpenELA)」を立ち上げた。OpenELAは、Red Hat Enterprise Linux(RHEL)と互換性のあるエンタープライズLinuxディストリビューションの開発を促進し、そのソースコードを無償で提供することを目的としている。
これは、2023年6月にRed Hatがソースコードの一般公開をやめ、顧客限定としたことへの対抗措置と受け止められていた。Red Hatのこの方針転換について、「オープンソースの理念に反するもの」と見なされ、SUSEがエンタープライズLinuxの市場で競争戦略を掲げたことに注目が寄せられていた。
「戦略発表」と題した会見では、その違いを鮮明に打ち出すことを予想していた。しかし以外にもルーウェン氏は「Red Hatとの関係は競合ではなく補完関係」と表現し、「競争よりも顧客重視」の姿勢を鮮明にした。インタビューでは、その真意について話を聞いた。
お客様の選択肢を広げることが重要
「オープンソースにおいて最も重要なのは、お客様にとっての選択肢だ。お客様は複数のLinuxディストリビューションを使っているので、その選択肢をサポートできるかどうかがSUSEの立ち位置だと考えている」とルーウェン氏は語る。
「ブランドや知的財産がイノベーションを生むのではなく、エンジニアや技術者の協力がイノベーションを生み出す。オープンソースの世界では、プロジェクトから生まれたプロダクトをどこまで使えるかが重要なポイントだ」
ルーウェン氏は「Red Hat時代も含め長年のオープンソースビジネスの経験を通じ、最終的にはお客様の選択こそが最も重要だと確信するに至った。それこそがオープンソースの本質だ。だからこそSUSEのCEOに就任した時、これまでの思いを本当の意味で実現できると感じた」と述べ、顧客重視とオープンソースへの信念を重ねた。
コンテナ技術とセキュリティへの注力
SUSEはコンテナ技術への取り組みも加速させている。2020年にはKubernetesベースのコンテナ管理プラットフォーム「Rancher Labs」を、2021年にはコンテナセキュリティツールの「NeuVector」を買収した。これらの買収について、ルーウェン氏は「コンテナ化されたアプリケーションの管理とセキュリティの強化に直結する重要な投資」と位置づける。
「コンテナについてもどのディストリビューションを採用するかは関係ない」と、ルーウェン氏はSUSEのKubernetesに対する姿勢を明確にする。「Kubernetesに対する方針も、Linuxと変わらない。結局、同じソースコードから来ているのだから。各クラウドベンダーがKubernetesのマネージドサービスを提供しているが、SUSEとしてはマルチクラウド、マルチディストリビューションのアプローチでお客様をサポートしていく」
また、セキュリティについても言及した。「多くの企業がコンテナの中に何が入っているのか、ライフサイクルにあまり注意を払っていない」と課題を指摘した上で、「コンテナに入ってくるものや出ていくものを事前にチェックし、問題発生前に対処することが肝要」とSUSEの取り組みを説明した。
NeuVectorの買収について、ルーウェン氏は「物理的なコンテナを想像してみてほしい。中に入っているものは見えないが、私たちはコミュニケーションという手段を通じて、新しいベクトルの世界において、パケットの出入りを『ディープパケットインスペクション(DPI)』と呼ぶランタイムの視点で見ることができる。たとえばクレジットカードのデータが不用意に外に漏洩するのをブロックするなど、ソフトウェア化されたコンテナならではの防御が可能になる」と語った。